流通経済大学 教育学Ⅰ(5)

■龍ケ崎キャンパス 5/8(月)
■新松戸キャンパス 5/12(金)

前回のおさらいと補足

・日本は江戸時代中期頃から生産力が向上し、子供に対するまなざしが大きく変化した。教育への関心が高まり、寺子屋などの教育機関も普及していった。このまま進めば自力で近代化を行うような実力を蓄えていった可能性もあるが、現実には西欧列強の圧力によって開国し、他律的な近代化を余儀なくされた。
・西洋列強が中華帝国やイスラム帝国に替わって世界の主役に躍り出る契機となったのは、西暦1500年前後。この時期、ヨーロッパでは(1)大航海時代(2)宗教改革(3)ルネサンスという出来事があった。ヨーロッパが強くなった理由を考えるときに、この3つの事件は重要である。
・しかしより重要なのは、この3つの事件に先行して、15世紀半ばに印刷術が発明されていたということである。

個人主義の誕生

・ヨーロッパに強大な力をもたらした新大陸発見、宗教改革、ルネサンスには、印刷術という新しい技術とリテラシーという新しい経験が共通して前提されている。
・それは同時に人間の欲望を積極的に肯定していく。個人主義の誕生。
・富を獲得し、天国を目指し、新たな娯楽に接触し、自己実現するためには、リテラシーを獲得しなければならない。
・リテラシーを獲得する手段=教育。
・リテラシーを獲得する場所=学校。

リテラシーの獲得と、モラトリアム

・生活をしていく上で、なにをするにもリテラシーが必要な世の中へと変化する。リテラシーを身につけることが、人間として生きていく上での必須の条件と見なされるようになっていく。
・リテラシーを身につける場としての学校。
・リテラシーを身につける期間としてのモラトリアム。

モラトリアム:執行猶予。労働から免除されている期間。思春期・青年期の拡張。大人と子供の距離が広がっていく。

・人々自らの生活の必要によって教育機関が作られていく。権力者によって強制的に教育や学校が押しつけられていくわけではない。(むしろ権力者にとってみれば、一般民衆が教育水準を高めることは脅威となる)

コンピュータ・リテラシー

・印刷術の登場に見られるように、新しいメディア技術の展開が人間の生活を大きく変化させる場合がある。それは現代のコンピュータの登場によって人々の生活が劇的に変化したことを考えると、わかりやすい。

コンピュータ・リテラシー:コンピュータを使って情報を得たり発信したりすることができる能力。

・ここ数年で、就職活動をするにもコンピュータ・リテラシーが必須な世の中へと劇的に変化した。コンピュータが使えないと、まともに就職もできないような世の中。→たとえば「履歴書」とは何か。

欲望の解放と制御

市民社会:欲望の体系(ヘーゲル『法の哲学』)。個人主義(欲望にまみれた利己的人間)を満足させるために組み立てられた世の中。
・世界の経済的発展は「欲望の解放」によって促進される。「欲望の制御」を厳しくしすぎると、世界は停滞する。
・しかし人間の欲望には際限というものがない。解放された欲望は、そのままでは世界そのものを破壊してしまう。
・欲望を解放して、自分勝手な利己的人間だらけになって、なおかつ世界を破滅させないような方法はあるか? →民主主義

市民革命と民主主義

・民主主義とは何かを考えるとき、その成立過程を捉えるために市民革命について見ていく必要がある。

市民革命:時に暴力行為を伴った、世の中の仕組みの根底からの変化。領邦君主や貴族が中心だった世の中から、市民が中心の世の中へ。
市民:新興ブルジョワ。中産階級。龍ケ崎市民とか松戸市民というような、固有領域の住民という意味での「市民」ではない。大雑把には、固有の資産を持ち、知識と教養を備えた人々のことで、基本的に金持ちで白人の男性のみ。

市民革命重要人物政治思想書教育思想書
清教徒革命1642トマス・ホッブズ『リヴァイアサン』
名誉革命1688ジョン・ロック『市民政府論』『教育論』
アメリカ独立戦争1776トマス・ペイン『コモン・センス』
フランス革命1789ジャン・ジャック・ルソー『社会契約論』『エミール』

・市民革命の政治思想と、市民社会に必要な新たな人間像は、セットになっている。新しい世の中には、新しい人間が必要。

復習

・「リテラシー」という言葉の意味と、それが教育に対して持っている意義をしっかり理解しよう。

予習

・「社会契約論」について調べておこう。