教育概論Ⅰ(栄養)-1

東京家政大学 短大栄養科 4/18

半年間の予定

・本講義は教員免許(中学家庭科)資格に関わる授業であり、特に「教育」の原理・哲学・思想・歴史に関わる領域を扱う。
・「家庭科」の内容と関わりながら「教育」の思想を理解することに重点を置く。
・「家族」と「学校」の関係について、原理的に考える論理や視点を得られるようにする。

今回の内容

・いま我々は「学校」というものの存在を当り前に思っているが、日本史や人類史の全体を視野に入れると、「学校」というものが例外的な存在であることがわかる。我々の祖先の大多数は「学校」に通っていなかったし、それでも世の中は回っていた。
・「すべての子供たちが学校に通うのが当り前」という感覚を、いちど立ち止まって疑ってみよう。ここから「学校」や「教育」が持つ意味が浮かび上がってくる。
・はたして「教育」には意味があるだろうか? 子供たちはなぜ「勉強」しなければいけないのだろうか? 「学校」にはどんな存在意義があるのだろうか?

「学校」の機能を考える

・まず「学校」が現実に果たしている機能を見えやすくするために、思考実験をしてみよう。

【思考実験】ジャイアン・スネ夫・のび太のうち、「学校」の成績が人生を左右するは誰か?

▼答え:のび太

▼理由:(1)ジャイアンの家は「自営業」であり、ジャイアンは跡継ぎである。学校のテストの点が良かろうと悪かろうと、ジャイアンの将来の職業は変わらない。
(自営業は、誰かから給料がもらえるわけではないので、自分自身の活動によって商品価値のある物や情報やサービスを生み出さなければならない。しかしその活動をうまく行うための具体的で実践的なスキルを「学校」で教えてもらえることはあまり期待できない。)

(2)スネ夫の家は「資本家」であり、自分自身が労働する必要はない。スネ夫は出来杉くんのような才能ある人材に投資するだけで儲かるのであって、自分自身が高学歴である必要はあまりない。スネ夫にとって「学校」とは、自分が投資するに値する有能な人間を生産してくれる場所である。スネ夫が出来杉くんにはラジコンを貸すのに、のび太には貸さない理由を考えよ。

(3)のび太の家は「労働者」であって、自分自身が労働する必要がある。生涯賃金を上げようと思ったら、良い企業に雇用される必要がある。そのためには良い大学を出なければならないし、そのためには良い高校を出なければならない。学校のテストの点は、のび太の人生をダイレクトに左右する。
(ちなみに、自営業は自分の活動で生み出した物や情報やサービスを売ってお金を稼いでいるが、労働者が売っているものは何か?)

(4)オマケ:しずかちゃんの生き方には「専業主婦」という選択肢が色濃く反映されている。彼女はどうしていつもお風呂に入っているのか? 「ジェンダー論」等で学んだ知見を活用して考えること。

※この見解は特定の観点(功利主義)からの価値観に基づいており、後の講義で相対化されます。

「家族」の教育戦略によって「学校」の見え方が異なる

・「家族」の性格によって、「学校」への期待のかけかたの重点が異なる。
・「労働者」のキャリアは、少なくとも就職先は学校でのテストの結果が大きく左右する。
・しかし「実家の商店の跡継ぎ」になるジャイアンにとって、「学校」の勉強にはどういう意味があるだろうか?
・「家族」が必要としている教育内容は、はたして「学校」が提供している教育内容で満足させられるだろうか?

大人と子供の境界線

・現在は、様々な基準で大人と子供の間に境界線が引かれている。
・たとえば、労働(働いているのが大人、働いていないのが子供)、年齢制限(酒や煙草を許されるのが大人、許されないのが子供)、選挙権、結婚という基準が考えられる。
・しかし、日本でもヨーロッパでも、かつてはこの境界線は存在しなかった。

子供はいなかった

・かつて、「7歳」という年齢が大きな境界線となっていた。
・7歳以後、人々は労働に従事していた。つまり大人の世界の一員として世界に参入していた。
・いっぽう、7歳以下は、社会全体の無関心に晒されていた。
・埋葬、捨て子、マビキなどの具体的事例。

参考文献

フィリップ・アリエス『<子供>の誕生』
主にフランスにおいて「子供期」がどのように生じてきたかを分析した社会史研究書。中世まで人々は子供に無関心だったが、17世紀から子供と大人の間の境界線が厚くなっていったという見解。

カニンガム『概説子ども観の社会史』
ヨーロッパと北米において、子どもの実際と観念がどのように変化したかを概観した社会史研究書。20世紀における急激な変化を強調。

柴田純『日本幼児史』
日本において7歳という境界線がどのように生じたかを分析した歴史学の本。古代・中世の人々は子供に対して無関心だったが、江戸中期以降に子供に対する心性が大きく転回したという見解。

復習

・自分が「学校」の教育内容として何を期待しているか、考えてみよう。
・その教育内容は、はたして他の人にとっても意味を持っているか、いろいろな可能性を想像してみよう。
・「家庭科」という教科が、どのような意義を持っているか考えてみよう。

予習

・「イニシエーション」という言葉の意味を調べておこう。