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教育の基礎理論-9

前回のおさらい

・自由の落とし穴。児童労働の発生。
・社会権としての教育。「国家」の積極的な関与。

義務教育の思想(つづき)

コンドルセ marquis de Condorcet

・1743年~1794年、フランス出身。
・愛称:公教育の父。
(1)子供の学習権。
(2)教育費無償。
(3)ライシテ:政治的中立や宗教的中立。

ロバート・オーエン Robert Owen

・1771年~1858年、イギリス出身。
・キーワード:性格形成学院。
・工場法の展開

1802年徒弟の健康と道徳に関する法律制定。
1819年繊維工場では9歳以下の労働禁止。16歳以下は1日12時間以内に制限。
1833年12時間労働。9歳未満の労働禁止。13歳未満は週48時間。
1844年女性労働者の労働時間制限。
1847年若年労働者の労働時間を1日10時間に制限。
1870年教育法制定。公費による学校設立。

教育権の構造

・教育に関わる4つの立場「子供/親(保護者)/教師/国家」が、それぞれどのような「権利/義務」を持っているかを明らかにする。それぞれが教育で果たすべき役割が明確になる。

子供の学習権

・子供は学習権を持つ。教育を受ける権利がある。
・学習する権利が保障されなければ、自分にどのような自由や権利があるかすら分からなくなってしまう。
・この場合の教育とは、「自分自身になる」ための教育。人格の完成を目指す教育。普通教育。特定の知識や技術を身につける職業訓練ではない。

日本国憲法第26条-1
すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。

親の教育義務

・親には、子供を教育する義務=子どもの権利を保障する義務がある。

日本国憲法第26条-2(前半)
すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。
教育基本法第5条-1
国民は、その保護する子に、別に法律で定めるところにより、普通教育を受けさせる義務を負う。

親の教育権

・子供を教育する第一の権利は、親にある。
・しかしその自由は無限に認められるのではなく、あくまでも「子供の学習権」を保障するために与えられているという責任が伴っている。
→親には「監護権」が与えられるが、それはあくまでも「子の利益」のためである。

民法第820条、822条
*民法第820条:親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。
*民法第822条:親権を行う者は、第820条の規定による監護及び教育に必要な範囲内でその子を懲戒することができる。
教育基本法第10条-1
父母その他の保護者は、子の教育について第一義的責任を有するものであって、生活のために必要な習慣を身に付けさせるとともに、自立心を育成し、心身の調和のとれた発達を図るよう努めるものとする。

国家による親への支援

・どんな貧乏な親でも義務を果たすことができるよう、国家が支援する必要がある。義務教育。社会権としての教育。

日本国憲法第26条-2(後半)
義務教育は、これを無償とする。
教育基本法第5条3・4
3  国及び地方公共団体は、義務教育の機会を保障し、その水準を確保するため、適切な役割分担及び相互の協力の下、その実施に責任を負う。
4  国又は地方公共団体の設置する学校における義務教育については、授業料を徴収しない。
教育基本法第16条-4
国及び地方公共団体は、教育が円滑かつ継続的に実施されるよう、必要な財政上の措置を講じなければならない。

国家による教育介入の制限

・国家はあくまでも親に対する支援者であって、積極的に教育の内容へ介入することは期待されていない。自由権としての教育。

教育基本法第14条-2、第15条-2
*14条-2:法律に定める学校は、特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動をしてはならない。
*15条-2:国及び地方公共団体が設置する学校は、特定の宗教のための宗教教育その他宗教的活動をしてはならない。
教育基本法第16条-1
教育は、不当な支配に服することなく、この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきものであり、教育行政は、国と地方公共団体との適切な役割分担及び相互の協力の下、公正かつ適正に行われなければならない。
外的事項と内的事項

・国家は外的事項には積極的に関与すべきだが、内的事項に関与することは抑制的であるべき。
*外的事項:財政的措置=学校設立費・水光熱費・授業料・教科書代、法的措置=就学義務・学校制度・教員資格・機会均等、教育環境整備=教員配置・補助員配置・衛生的配慮
*内的事項:教育内容、教育課程、教育方法。

教師の教育権

・教師は、親でもないのに、どうして権力を持ち、どういう根拠で子供を指導することができるのか。
→医師は、親でもないのに、どうして権力を持つのか?
・営造物理論、特別権力関係論:学校は刑務所等と同じか?
・親の教育権の信託。PTA。

教職の専門性

・安心して権利を信託してもらうためには、教師は教育のプロフェッショナルでなければならない。
・教師はどのような点で教育のプロなのか?
(1)教える内容:教科、教育課程、学習指導要領
(2)教え方:教授法、教育理論
(3)子供の個性:心理学、教育相談
(4)集団:学級経営、特別活動、いじめ防止
(5)プロとしての自覚:教職基礎論

復習

・コンドルセとオーエンの思想について押さえておこう。
・「義務教育」とは、誰の誰に対するどのような義務か、押さえておこう。
・「教職の専門性」について、自覚を持とう。

予習

・「産業革命」について調べておこう。

教育の基礎理論-8

前回のおさらい

・ペスタロッチー、ヘルバルト、フレーベル

義務教育の思想

・近代の教育思想で、教育はすべてうまくいくのか?
・学校を否定し、個人主義を貫くような、「自由権としての教育」の実態。→現実には貧民の子供が「児童労働」を行っていた。

・「義務教育」とは、誰の誰に対するどのような義務か?
・「子供が教育を受ける権利」はどのように生まれたか?

思考実験:自由の落とし穴

・自由を拡大したとき、得をするのはどういう人たちか?
・強者と弱者の間の格差拡大。
・自由を<実質的に>使いこなすことができるのは金持ちだけ。貧乏人はそもそも自由に<実質的に>手が届かない。形式的に自由を与えるだけでは、意味がないかもしれない。
・「自由権としての教育」だけでは、金持ちは十分な教育を受けることができたとしても、貧乏人は教育を受けることができない。教育によって、ますます貧富の格差が広がる。
・貧富の格差=資本家と労働者への階層分化。

労働力の売買

・「働く」とは、経済学的にはどういうことか?
*労働力:「働く」と言うのではなく、「労働力を売る」と言う。「雇う」と言うのではなく、「労働力を買う」と言う。
・労働力の再生産は、家庭で行われる。
・労働力をモノのように売買できるようにしたことで、市場原理によって必要なところに迅速に労働力が供給され、資本主義の展開が加速する。(奴隷労働のままでは労働力の流動化が促進されず、資本主義は加速しない。)

思考実験:働いたら負け

・働いていない人ほどお金儲けができる?
・ワーキングプア:働けば働くほど貧乏になる?
・労働力は、売るよりも買う方が得?
・労働力を買うには、生産手段(土地や工場)がなければならない。
・生産手段+原材料+労働力→商品
・モノの価格は市場原理(競争)によって決まる→労働力の価格も市場原理(競争)によって決まる。
・失業者問題。
・努力すればするほど悪循環に陥るのはなぜか。←競争する相手を間違えている。
・最も安いのは、子供の労働力。→児童労働の発生。
・誰もが自由で平等だったからこそ児童労働が発生してしまったのであって、もはや形式的な自由を拡大するだけでは対処不可能。努力の問題ではない。
・児童労働を防ぐにはどうしたらよいか???

社会権としての教育

*社会権:形式的に自由が与えられるだけでなく、全ての人が実質的に自由を使いこなすことができるように、強者に対してハンデを設け、弱者に対して様々なアドバンテージが与えられる。生存権、労働基本権、教育を受ける権利。
・たとえば、最低賃金や労働時間の設定、労働組合の結成等により、成人の労働環境が守られ、児童労働の自然発生を抑制することができる。
・工場法制定など、児童労働の撤廃に向けての具体的な動き。
・誰が責任を持つのか?←「国家」の積極的な関与。

復習

・自由が拡大すると格差も拡大する理屈について押さえておこう。
・「社会権」の意義について押さえておこう。
・「義務教育」が成立する過程について、理論と実践の両面から押さえておこう。

予習

・「産業革命」について、おさらいしておこう。

教育の基礎理論-7

前回のおさらい

・コメニウス、ロック、ルソー。

近代教育学の展開

・他の学問分野から独立した、固有の教育学が形成されていく。

ペスタロッチー Johann Heinrich Pestalozzi

・1746年~1827年。スイス出身。
・主著『隠者の夕暮』『シュタンツだより』『ゲルトルートはいかにその子を教えたか』『白鳥の歌』
・キャッチフレーズ:実物教授。直感教授。労作教育。3つのH(Hand、Heart、Head)=知徳体。
名言:「王座の上にあっても、木の葉の屋根の蔭に住まっても同じ人間だ」=身分に関係なく、普遍的な人間を教育する。「生活が陶冶する」
・孤児や貧民の子供の教育を通じて、身分や階級に関わらない人間一般の教育原理を打ち立てた。ルソーが理論だけだったのに対して、ペスタロッチーは実践を通じて教育原理を明らかにした。
・アメリカを経由したペスタロッチー主義(開発主義教育)は、明治初期に日本でも流行した。

伊沢修二

・1851年~1917年。長野県出身。
・アメリカに留学して教育学を学んだ後、日本で開発主義を広めた。
・主著『教育学』。
・音楽教育や体操の普及、植民地での国語教育などにも深く関わった。

高嶺秀夫

・1854年~1910年。福島県出身。
・アメリカに留学して教育学を学んだ後、日本で開発主義を広めた。
・主著『教育新論』。ジョホノット教育学の翻訳。
・高等師範学校の校長として、開発主義の普及に貢献した。

ヘルバルト Johann Friedrich Herbart

・1776年~1841年。ドイツ出身。
・主著『一般教育学』『ペスタロッチー直感教授のABC』
・キャッチフレーズ:教育学の父。目的としての倫理学、方法としての心理学。段階教授法。
・名言:「教授のない教育などというものの存在を認めないし、逆に、教育のないいかなる教授も認めない」
・ペスタロッチーの実物教授を引き継ぎながら、教育学を体系化された学問へと鍛えた。家庭教師による教育ではなく、学校における教師の教授法を理論化した。

ヘルバルト主義教育学

・ヘルバルトを引き継いで、科学的な教育学を発展させた。
・チラー、ライン。
・五段階教授法。予備→提示→比較→総合→応用。
・中心統合法。宗教(道徳)を中心としたカリキュラム(スコープ)構成の原理。
・開化史的段階。カリキュラム配列(シークエンス)の原理。

谷本富

・1867年~1946年。香川県出身。
・主著『実用教育学及教授法』『科学的教育学講義』
・ヘルバルト主義を日本人にわかりやすく改変し、流行をさせた。後にヘルバルト主義を捨てて、新教育にコミットした。

フレーベル Friedrich Wilhelm August Fröbel

・1782年~1852年。ドイツ出身。
・キーワード:幼稚園の創始者。恩物。
・主著:『人間の教育』
・ペスタロッチーの影響を受け、幼児教育に人生を捧げた。

倉橋惣三

・1882年~1955年。静岡県出身。
・形式化した幼児教育を批判し、子供の個性と自発性を重んじた幼児教育の発展に尽くした。
・「自ら育つものを育たせようとする心、それが育ての心である。世の中にこんな楽しい心があろうか」

復習

・時代背景を考慮しながら、各教育思想の本質を押さえよう。

予習

・義務教育とは何か、その導入経緯について考えておこう。

教育の基礎理論-6

前回のおさらい

・近代教育の始まり(ヨーロッパ)
・民主主義と市民革命

近代初期の教育思想

・特定の職業や身分のための人間形成を超えるような、普遍的な人間を作ることを目指す教育思想は、近代から始まる。

コメニウス Johannes Amos Comenius

・宗教改革、プロテスタント。
・1592年~1670年。モラヴィア出身。
・主著『大教授学』、『世界図絵』(世界初の絵本)
・教育学的愛称:近代教授学の父
・キャッチフレーズ:全ての人に全ての事柄を教授する

ロック John Locke

・市民革命、経験主義。
・1632年~1704年。イングランド出身。
・主著『市民政府論』(政治思想)、『人間悟性論』(認識論)、『教育論』あるいは『教育に関する一考察』(教育思想:翻訳が異なるだけ)
・キャッチフレーズ:紳士教育タブラ・ラサ(白紙説)
・名言:健全なる精神は健全なる身体に宿る。←体育(食物、睡眠、居住環境など)の重要性を強調。
・新しい市民社会を担う紳士(ジェントルマン)を作る。子供期の独自性を認めるというより、理性ある大人になるための教育。習慣形成の重要性。

ルソー Jean-Jacques Rousseau

・市民革命、ロマン主義。
・1712年~1778年。ジュネーヴ出身。
・主著『社会契約論』(政治思想)、『人間不平等起源論』(政治思想)、『新エロイーズ』(恋愛小説)、『エミール』(教育思想)
・キャッチフレーズ:子どもの発見消極教育
・名言:万物を創る者の手を離れるときはすべてよいものであるが、人間の手に移るとすべてが悪くなる
・子供期の独自性を初めて主張する。消極教育とは、書物による早期教育をいましめ、まず自然による教育(たとえば感覚の訓練など)を重視する姿勢。

近代初期教育思想の特徴

・完成した大人の理想像から教育を組み立てる考え(ロック的なもの)と、純粋な子供の理想像から教育を組み立てる考え(ルソー的なもの)の両側面。子供の誕生=大人の誕生。
・いずれにせよ、あらゆる人間が共通して持つ「理性」に対する全面的な信頼。
・個人を育てる私教育。自由権としての教育(国家からの自由)。集団(学校教育の固有性)の軽視。

復習

・時代背景を考慮しながら、各教育思想の本質を押さえよう。

予習

・ペスタロッチーやヘルバルトについて調べておこう。

 

教育の基礎理論-5

前回のおさらい

・イニシエーションの役割。若者組の機能。
・近代教育の始まり。寺子屋。

近代教育の始まり(ヨーロッパ)

・ヨーロッパ、中世から近代への準備。
(1)大航海時代
(2)宗教改革
(3)ルネサンス
→中世キリスト教の世界観が否定され、新しい世界観と人間像=個人主義が登場する。

個人:身分や地域の特殊性にはまったく関係がない、普遍的な人間。伝統的共同体から切り離された、剥き出しの人間。
個人主義:人間のありのままの姿を肯定し、ひとりひとりの人間の欲望を優先する考え方。

民主主義と市民革命

市民革命重要人物政治思想書教育思想書
清教徒革命1642トマス・ホッブズ『リヴァイアサン』
名誉革命1688ジョン・ロック『市民政府論』『教育論』
アメリカ独立戦争1776トマス・ペイン『コモン・センス』
フランス革命1789ジャン・ジャック・ルソー『社会契約論』『エミール』

市民革命:時に暴力行為を伴った、世の中の仕組みの根底からの変化。領邦君主や貴族が中心だった世の中から、市民が中心の世の中へ。
市民:新興ブルジョワ。中産階級。三鷹市民とか八王子市民というような、固有領域の住民という意味での「市民」ではない。大雑把には、固有の資産を持ち、知識と教養を備えた人々のことで、基本的に金持ちで白人の男性のみ。

・新しい社会を作る=新しい「個人」を作る→普遍的な人間のための教育=人格の完成を目的とする教育。
・教育とは、知識を注入したり偏差値を上げるような教育ではなく、または特定の職業を目指すような教育ではなく、普遍的な人間を作るための「人格の完成」を目指す教育。
・Instruction=専門教育とEducation=普通教育の違い。

基本的人権

基本的人権:誰がリーダーになったとしても、絶対に人々から奪うことができない生まれながらの権利。→社会契約論で議論された、自然状態の人間が持っていた自由。
自由権:国家からの自由。国家が侵害することができない、個人が持つ権利。

教育の自由。自由権としての教育

・自分の子供をどのように教育するかは、国家から関与されることではない。←信仰の自由 どのような思想信条を持つかについて、国家が個人に命令することはできない。

復習

・ヨーロッパが中世から近代へと変わるなかで、社会や人間に対する考え方がどのように変わったかを押さえておこう。

予習

・近代の教育思想の特徴について調べよう。

課題

・締め切り:11/7(火)
・形式:800字程度。手書きOK、コンピュータOK。用紙サイズなど、日本語で読めれば何でも可。
・内容:コメニウス、ロック、ルソー、ペスタロッチー、ヘルバルトのうちから一人選んで、その教育思想の特徴を調べて、それに対して自分はどのように思うか感想を書く。