「ケア」タグアーカイブ

【要約と感想】石川瞭子編『高校生・大学生のメンタルヘルス対策―学校と家庭でできること』

【要約】社会のあり方が大きく変わった結果、高校生や大学生に対するケアのあり方も、従来の考え方から大きく変えていかなければなりません。発達障害、危険薬物、ひきこもり等、新しい状況にきめ細やかに対応するため、養護教諭やスクールカウンセラー、ソーシャルスクールワーカーなど専門家が連携を密にしていく必要があります。個別事例を詳細に検討すると、子どもと父親との関係が問題であることが多いことが見えてきます。保護者に対するケアを伴わなければ根本的な解決は望めないでしょう。

【感想】個別的事例は、詳細で、胸が痛む。どうしてうまくいかないのか。現場の専門家たちは精一杯やっているようにしか見えないのだが、やはり家庭の協力がなければいかんともしがたい。こうした個別事例から得られる教訓を共有しながら、地道に粘り強く対応していくしかない。私自身も、目の前に課題を抱える学生たちがたくさんいるので、自己有用感を育んでもらえるよう、傾聴の姿勢と受容の態度で受けとめ、温かく見守っていきたい。

が、理論的な部分では「?」とも思う。「時代は変わった」と言うのはよいが、その本質的な部分を捉えているかというと、個人的にはかなり微妙な感想を持つ。心理に関わる人たちには歴史の知識が欠けているという認識(偏見?)が、さらに強まった本でもあった。

【今後の個人的な研究のための備忘録】
エリクソンの理論が時代にそぐわなくなっているという記述があって、おもしろかった。心理の専門家から見ても「時代遅れ」に見えるという言質を得て、勇気が出るのであった。

「エリク・ホーンブルガー・エリクソンは、高校の時期を青年期前期とし、同一性と同一性拡散がこの時期の発達の課題だとした。この時期は子どもから大人に移行する時期であり、心理社会的な意味が大きな時期だと言われている。しかし現代の青年期は、大人への移行期ではなくなっている。つまり、エリクソンが言うような青年期、自分を見つめたり葛藤したりしながら自己を確立する時期とは違うものになっている。(中略)大人になったら自由にできることが増えるから、窮屈な子供時代から脱出したいと思うような社会の構造ではなくなっているのだ。」(85頁)

石川瞭子編『高校生・大学生のメンタルヘルス対策―学校と家庭でできること』青弓社、2013年