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【要約と感想】田中浩『ホッブズ』

【要約】ホッブズは社会契約説を理論化して、現代の民主主義の基礎となる近代的な政治哲学を打ち立てました。

■確認したかったことで、期待通り書いてあったこと=ホッブズ社会契約論のアイデアがエピクロスとルクレティウスに由来していること。つまり社会契約論はルネサンスの文脈に位置づけられる。

ホッブズの意図が、宗教改革以来のローマ教皇と世俗領邦君主との争いの最終決着にあったこと。単に近代国家論を提唱したのではなく、宗教からの国家の分離が極めて重要なテーマとなっている。

■要確認事項=1640年に発表された『法の原理』第一部は、「自立的人格としての人間について」となっている。個人的な研究範囲では、近代的な意味で「personality=人格」という言葉を使い始めたのはホッブズだと思っているのだが、まだ『法の原理』は読んでいなかった。すぐ読もう。

また、近代国家の原則として「権力は一つ」ということをホッブズは強調するのだが、その見解がプラトン『国家』やプロティノスに由来するなんてことはあるのか。プラトン『国家』は、最高の善は「一なること」と言っている。社会契約論がエピクロスに由来するなら、「権力は一つ」の出自もギリシアにあっておかしくない。

ルネサンスと宗教改革を総合したということで「ホッブズこそが封建から近代へと転換する思想を最初に構築した」(p.51)と書いてあるけど、真に受けて言質にして引用しても学会的に大丈夫ですか?

そして、ホッブズが構想する国家の基本単位が、従来の家族やポリスやギルドといった集団ではなく、「個人」であるとされているが(p.88)、本当に個人主義は貫徹されているのか? 少なくとも『リヴァイアサン』では、明らかに男性を中心とした「家父長制家族」を前提としているように読めるのだが。

【感想】personalityの近代的用法の起源に関して、ホッブズは避けて通れない超重要人物に違いないという認識がますます強まってきた。

田中浩『ホッブズ―リヴァイアサンの哲学者』岩波新書、2016年