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【要約と感想】芳賀登『成人式と通過儀礼』

【要約】昔は、大人になるのは大変だったんだぞ。

【感想】教育勅語が一時期話題になったとき。これがあたかも日本の伝統的道徳かのように主張する人もいたけれど。こういう民俗学の本を読むと、実際には教育勅語が日本の伝統的習俗の否定の上に成立していたものだということが分かる。

本書は、「成人式」や「成女式」を中心に、日本において「大人になる」ということが、かつてどういうことだったかを明らかにしようとしている。そして「若者組」や「娘組」の実践を振り返り、村落共同体全体での「しつけ」の重要性を強調している。この村落共同体全体での「しつけ」が、明治政府による一連の政策によって失われていったことを、丁寧に示していく。盆踊りや若者組の禁止など、自然村から行政村への転換の過程で失われた伝統は数知れない。
(1945年の断絶を強調する人々がいるけれど、それは1868年の破壊的な断絶に意識的であった時に初めて説得力を持つはずだ。教育勅語は日本の伝統的な姿を引き継いではいない。それが儒教的価値を近代的価値で装った「明治」という特殊的な時代状況において一定の役割を果たしたことは間違いないだろうが。)

しかし本書は同時に、前近代の習俗が示す非人間的な残虐性に対する戸惑いを隠していない。特に女性を奴隷のように扱う伝統的習俗は、修正されて良かったと言う。近代を評価するのか、それとも批判するのか、著者の立場は一貫せず、最後まで価値判断は揺れている。

したがって、同じ話が何度も執拗に繰り返されたり、話題が飛躍したり、行論がブレまくって、立場が一定しない。しかし論理的な破綻は、一つの判断基準では裁断できない主題に対する著書の誠実さの現れなのかもしれない。

芳賀登『成人式と通過儀礼―その民俗と歴史』雄山閣、1991年