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【感想】ライオンキング

劇団四季『ライオンキング』を観てきました。

歌もダンスも大変な迫力で、見応えがありました。大掛かりな演出にも驚かされるし、細かいギャグなどで笑いも絶えないし、時間を忘れさせる素晴らしいステージでした。役者さんの鍛えられた肉体美を見ているだけでも楽しい。主役以外の人たちも、分厚い胸板に、はち切れそうな太腿。絶え間ない躍動感が刺激的。とても良かったです。(以下ネタバレ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まあ、話の内容は、どうかなあという感じ。悪役になってるスカーやハイエナたちが可哀想すぎる。生まれたときに醜いものは更生の余地がない悪であるというようなメッセージに思えて、いたたまれない気持ちになる。彼らも精一杯生きているだろうに。スカーは、虐げられていた弱者であるハイエナに自分と同じ境遇を見ていた気がする。王であるムタファは、醜く汚いハイエナを排除するだけで、彼ら弱者の気持ちを分かろうとはしない。おそらくシンバも。醜い弱者であるハイエナや自分も「愛してもらえる」ような社会にしたいという思いは、そんなに悪いことだろうか? それに、スカーが王を簒奪してからの天候不順は、べつに彼のせいじゃないだろう。シンバが王位に就いたら天候不順は解決するのか? しないだろう。スカーが「愛される兄にあって愛されない自分に足りないものはなんだ」と問うていたけれども。何かが足りてようが足りてなかろうが、そんなこと関係なく、全ての存在に愛される価値がある、そんな世界をスカーは夢見ていたんじゃないか。
主役のシンバもシンバで、乗り越えるべき葛藤が内在的には曖昧なまま、外在的な偶然でうまくいくに過ぎない。父殺しの葛藤は、もっと内在的に熟成させないといかんだろう。本当にあれで成長してるのか? シンバが王座に就いたところで、再びハイエナたちを排除し境界を作るのでは、ただ階級構造を再生産するに過ぎない。ハイエナたちも交えてみんなが幸せに暮らせる社会を作ることで父を超えていく、あるいは父とスカーを止揚するというところを見せないと、成長とは言えない。が、シンバが王になってどんな国になるかは、暗示すらされない。おそらく階級構造再生産に終わるだろうことは容易に想像が付くけれども。
とまあ、脚本の柱に対して思うところはなくはないが、役者さんたちの演技はこの上なく素晴らしかったということで。ひょっとしたら、話の柱に対する私の感想も、スカーの役者さんの演技が素晴らしすぎたということに由来するのかもしれん。ただの悪い奴にはどうしても見えなかった。