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教職基礎論(栄養)-5

▼短大栄養科 5/20(土)

前回のおさらい

・教師の仕事として、学習指導と生徒指導の二本柱がある。
・学習指導では、「生きる力」を育成する。
・「学力」は、学校教育法で定義されている。学力の三要素。
・教育基本法第一条、「人格の完成」について。
・個性とアイデンティティ

自由とは何か?

・モノは自由ではないが、人格は自由である。
・教育とは、自由でないようなものを、自由にするための営みである。
・子供は不自由で、大人が自由?
・人間は、本当に自由なのだろうか?

思考実験:自由と責任

case1:殺人 選択肢がある場合
case2:リモコン 選択肢がない場合
case3:予言者 選択肢はあったのか?→(余談)悲劇とは何か
case4:隕石 物理法則には選択肢の余地がない
case5:因果関係 因果関係に選択肢はあるか→(余談)決定論
case6:責任 選択肢は、あったはずだ

・「責任をとる」ということは「自由」でなければ起こりえない。
・「自由」であるということは、因果律に支配された「モノ」とは違うということである。
・因果律に支配されないものとは何か? →人格
立法能力:自分でルールを作って、自分で守ることができるような力。他人の作ったルールに従う(他律)のではなく、自らの意志でルールに従う(自律)。

教育における自由の哲学問題

・教育の場面で起こりえる自由問題について。子供も自由と責任の関係をよく理解している。
・「自由」と「わがまま・自分勝手」の違い。自由は、立法に関する自律性。自分で作ったルールは、しっかり守らなければならない。
・自由のアポリア。立法は自由だが、ルールに従うのは服従。強制的に自由にさせる。

自己実現とは何か?

自己実現:私らしい私になる。本当のわたしデビュー。=社会的経済的成功とは本質的には関係しない。
・直線的で連続的な成長ではなく、矛盾と葛藤を経た不連続な成長。弁証法的発展。
・自己耽溺と自己疎外。
・自由な選択。
・「自分こわし」から「自分つくり」へ。

まとめ:人格の完成とは・・

・個性の尊重:かけがえのないわたし
・アイデンティティの確立:主体性
・自由の獲得:自律性
・自己実現:ほんとうのわたし

復習

・「自由」と「わがまま・自分勝手」の違いについて、自分なりに考えておこう。
・「自己実現」と「自己満足」の違いについて、自分なりに考えておこう。

予習

・「生きる力」について、文部科学省の見解を調べておこう。

課題

・締め切り:2週間 6/3(土)
・形式:800字程度。手書きOK、コンピュータOK。用紙サイズなど、日本語で読めれば何でも可。
・内容「小中高の学校生活で見てきた、尊敬できる先生、あるいは尊敬できない先生について。」

教育概論Ⅰ(中高)-5

▼栄養・環教 5/19
▼語学・心カ・教服・服美・表現 5/20

前回のおさらい

・日本で現在のような子供観が生じてきたのは、江戸時代半ば(1750年ごろ)から。
・寺子屋のような庶民の教育機関は、支配者から命令されたり押しつけられたりしてできたのではない。読み書きそろばん等の知識が人生の役に立つことが理解され、教育の必要を感じた人々によって、自発的に成長した。
・日本の近代化は、明治維新(1868年)以降に本格的に展開する。日本の教育を理解するためには、ヨーロッパの事情を確認する必要がある。
・ヨーロッパが強くなった理由。新大陸発見と印刷術、リテラシー。

ヨーロッパはどうして強くなったのか?

(2)宗教改革
(3)ルネサンス

ルターの宗教改革(1517年)

・カトリックとプロテスタントの違い。
・「聖書を読む」という行為を可能にするためには、聖書というモノそのものを低価格で供給する印刷術の存在が前提。
・印刷術が存在しない世界での情報発信の難しさ。ルターとヤン・フスの比較。
・世界を変革するためには、自分の意見を無差別かつ広範囲に、そして正確に発信することが必要。情報発信の決定的な手段としてのリテラシー。
・個人的な欲望や野心を実現するための手段。

ルネサンス(15世紀)

・芸術家の誕生。神に捧げるための技術から人間を楽しませるための芸術への転回。
・孤独な読書体験。音読から黙読へ。
・自己実現の決定的な条件としてのリテラシー。
・個人的な欲望や野心を醸成する経験。

個人主義の誕生

・ヨーロッパに強大な力をもたらした新大陸発見、宗教改革、ルネサンスには、印刷術という新しい技術とリテラシーという新しい経験が共通して前提されている。
・それは同時に人間の欲望を積極的に肯定していく。原始的な個人主義(わがまま、自分勝手、自己満足)の進展。
・富を獲得し、天国を目指し、新たな娯楽に接触し、自己実現するためには、リテラシーを獲得しなければならない。
・リテラシーを獲得する手段=教育。
・リテラシーを獲得する場所=学校。

リテラシーの獲得と、モラトリアム

・人々自らの生活の必要によって教育機関が作られていく。権力者によって強制的に教育や学校が押しつけられていくわけではない。(むしろ権力者にとってみれば、一般民衆が教育水準を高めることは脅威となる)
・しかし次第に、生活をしていく上で、なにをするにもリテラシーが必要な世の中へと変化していく。リテラシーを身につけることが、人間として生きていく上での必須の条件と見なされるようになっていく。
・リテラシーを身につける場としての学校。
・リテラシーを身につける期間としてのモラトリアム。

モラトリアム:執行猶予。大人としての労働や責任等から免除されている期間。思春期・青年期の拡張。大人と子供の距離が広がっていく。

コンピュータ・リテラシー

・印刷術の登場に見られるように、新しいメディア技術の展開が人間の生活を大きく変化させる場合がある。それは現代のコンピュータの登場によって人々の生活が劇的に変化したことを考えると、わかりやすい。

コンピュータ・リテラシー:コンピュータを使って情報を得たり発信したりすることができる能力。

・ここ数年で、就職活動をするにもコンピュータ・リテラシーが必須な世の中へと劇的に変化した。コンピュータが使えないと、まともに就職もできないような世の中。→たとえば「履歴書」とは何か。

欲望の解放と制御

・市民社会:欲望の体系(ヘーゲル『法の哲学』)。原始的な個人主義(欲望にまみれた利己的人間)を満足させるために組み立てられた世の中。
・世界の経済的発展は「欲望の解放」によって促進される。「欲望の制御」を厳しくしすぎると、世界は停滞する。
・しかし人間の欲望には際限というものがない。解放された欲望は、そのままでは世界そのものを破壊してしまう。
・欲望を解放して、自分勝手な利己的人間だらけになって、なおかつ世界を破滅させないような方法はあるか? →民主主義

復習

・「リテラシー」という言葉の意味と、それが教育に対して持っている意義をしっかり理解しよう。

予習

・「社会契約論」について、調べておこう。

課題

・締め切り:2週間 6/2(金)・6/3(土)
・形式:800字程度。手書きOK、コンピュータOK。用紙サイズなど、日本語で読めれば何でも可。
・内容「新聞や雑誌などから、現代日本の教育に関わる問題のうち、最も重要だと思うものを選んで、問題の概要を説明し、自分の見解を述べよ。」

 

【要約と感想】篠原一『市民の政治学』

【要約】16世紀西洋に始まった「第一の近代」は、20世紀には「第二の近代」へと変容しました。第一の近代が揺らいでいる現在、新しいデモクラシーの形が必要とされています。その鍵が「討議」です。

■確認したかったことで、期待通り書いてあったこと=近代の始まりと終わりについての簡潔な見解。近代への道は中世後期(10世紀)から徐々に用意されていたが、16世紀に初期近代が開始され、18世紀半ばに本格的に確立した。まあ、教科書的にはこれで特に問題ない見解と言えますよね、という確認。ルネサンスに近代性を見るか中世性を見るかなんて、マニアックな関心だよなあ。

「ポストモダン」論のように近代が完全に終焉したと極論するのではなく、「第二の近代」というふうに近代を段階的な展開過程として捉える見方。注目する事象そのものは諸々のポストモダン論とそう変わらないけれど、断定口調で時代の断絶を煽るようなポストモダン論とは異なっていて。「第二の近代」と理解する方が、漸進的に議論を積み重ねていこうとする実践的な知恵に優れているように思う。

■図らずも得た知識=日本において「市民社会」概念が議論されていたこと。市民社会論の系譜を辿りつつ、「私」とも「公」とも異なる「公共」という第三の領域を際立たせるという論の運びっぷりは、抽象的に鮮やかで、とても参考になった。真似する。

【感想】今から13年前に出版された本だけど、ものすごく古く感じてしまうのは、現実の変化が早すぎるからなのか。イギリスのEU離脱とトランプ大統領誕生を目の当たりにすると、本書の内容は残念ながら牧歌的に見えてしまう。仕方ない。
筆者が推奨している「討議的デモクラシー」の概念にしても、twitter等でろくに相手の文章も吟味せずに短絡的に「敵-味方」感覚だけで条件反射で吹き上がっている人々を見ると、異なる価値観の人々の間での合理的な討議なんてものが可能かどうか、つい短絡的に悲観してしまう。いや、言葉を発せるだけ、まだマシなのかもしれない。誰の視界からも消えているような、左にも右にもなれない声なき人々の残念な姿を見ると、デモクラシーなんて言っている場合か、と意気消沈してしまう。日本はサバルタンだらけですよ。

短絡的には悲観的になっちゃうにしても、10年スパンで大局的に見たときには、まだ本書が言うところの「楽観主義」は有効であり得る。それを信じて、少なくとも自分の声が届く範囲では、合理的かつ誠実な言葉を吐き続けるしかない。

篠原一『市民の政治学―討議デモクラシーとは何か』岩波新書、2004年

教育概論Ⅰ(保育)-5

▼短大保育科 5/18(木)

前回のおさらい

・日本で現在のような子供観が生じてきたのは、江戸時代半ば(1750年ごろ)から。
・寺子屋のような庶民の教育機関は、支配者から命令されたり押しつけられたりしてできたのではない。読み書きそろばん等の知識が人生の役に立つことが理解され、教育の必要を感じた人々によって、自発的に成長した。
・日本の近代化は、明治維新(1868年)以降に本格的に展開する。日本の教育を理解するためには、ヨーロッパの事情を確認する必要がある。

ヨーロッパはどうして強くなったのか?

・ヨーロッパが急激に強くなり始めた西暦1500前後に、ヨーロッパで起こっていたこと。
(1)大航海時代
(2)宗教改革
(3)ルネサンス
・これらを共通に可能にする技術としての印刷術。

印刷術とリテラシー

*リテラシー:文字を読んだり書いたりすることができる能力。文字を使って情報を得たり発信したりすることができる能力。
*印刷術:1450年前後にグーテンベルクが発明。

・「保育」と「教育」の違い。それぞれにとって「文字」というものが持っている位置を考えてみよう。

コロンブスの大西洋横断(1492年)

・どうして我々は自分の目で確かめたことがないにもかかわらず、「地球が丸い」ということを知っているのか? →本に書いてあるから。
・実際は、コロンブス以外の知識人も地球が丸いことを知っていた。他の知識人は地球の正確な大きさも把握していたから大西洋横断は不可能だと思っていたが、コロンブスは無知で無謀だったために冒険に乗り出した。
・印刷術による科学知識の普及。地理情報の伝播。正確な地図や海図。船乗りに必要な科学的知識。
・かつて手写しで作られていた本は、高価で稀少なものだった。これによって知識が伝播するには、コストがかかりすぎた。印刷術は知識の伝播範囲を格段に拡大し、速度を飛躍的に高める。
・冒険に出るためには、本を読んで知識を得ることが必須。知識は力。情報を得る決定的な手段としてのリテラシー。
・個人的な欲望や野心を達成するための技術。

ルターの宗教改革(1517年)

・カトリックとプロテスタントの違い。
・「聖書を読む」という行為を可能にするためには、聖書というモノそのものを低価格で供給する印刷術の存在が前提。
・印刷術が存在しない世界での情報発信の難しさ。ルターとヤン・フスの比較。
・世界を変革するためには、自分の意見を無差別かつ広範囲に、そして正確に発信することが必要。情報発信の決定的な手段としてのリテラシー。
・個人的な欲望や野心を実現するための手段。

ルネサンス(15世紀)

・芸術家の誕生。神に捧げるための技術から人間を楽しませるための芸術への転回。
・孤独な読書体験。音読から黙読へ。
・自己実現の決定的な条件としてのリテラシー。
・個人的な欲望や野心を醸成する経験。

個人主義の誕生

・ヨーロッパに強大な力をもたらした新大陸発見、宗教改革、ルネサンスには、印刷術という新しい技術とリテラシーという新しい経験が共通して前提されている。
・それは同時に人間の欲望を積極的に肯定していく。原始的な個人主義(わがまま、自分勝手、自己満足)の進展。
・富を獲得し、天国を目指し、新たな娯楽に接触し、自己実現するためには、リテラシーを獲得しなければならない。
・リテラシーを獲得する手段=教育。
・リテラシーを獲得する場所=学校。

欲望の解放と制御

・市民社会:欲望の体系(ヘーゲル『法の哲学』)。個人主義(欲望にまみれた利己的人間)を満足させるために組み立てられた世の中。
・世界の経済的発展は「欲望の解放」によって促進される。「欲望の制御」を厳しくしすぎると、世界は停滞する。
・しかし人間の欲望には際限というものがない。解放された欲望は、そのままでは世界そのものを破壊してしまう。
・欲望を解放して、自分勝手な利己的人間だらけになって、なおかつ世界を破滅させないような方法はあるか? →民主主義

復習

・「リテラシー」という言葉の意味と、それが教育に対して持っている意義をしっかり理解しよう。

予習

・「社会契約論」について、調べておこう。

課題

・締め切り:2週間 6/1(木)
・形式:800字程度。手書きOK、コンピュータOK。用紙サイズなど、日本語で読めれば何でも可。
・内容「新聞や雑誌などから、現代日本の教育に関わる問題のうち、最も重要だと思うものを選んで、問題の概要を説明し、自分の見解を述べよ。」

【要約と感想】田中浩『ホッブズ』

【要約】ホッブズは社会契約説を理論化して、現代の民主主義の基礎となる近代的な政治哲学を打ち立てました。

■確認したかったことで、期待通り書いてあったこと=ホッブズ社会契約論のアイデアがエピクロスとルクレティウスに由来していること。つまり社会契約論はルネサンスの文脈に位置づけられる。

ホッブズの意図が、宗教改革以来のローマ教皇と世俗領邦君主との争いの最終決着にあったこと。単に近代国家論を提唱したのではなく、宗教からの国家の分離が極めて重要なテーマとなっている。

■要確認事項=1640年に発表された『法の原理』第一部は、「自立的人格としての人間について」となっている。個人的な研究範囲では、近代的な意味で「personality=人格」という言葉を使い始めたのはホッブズだと思っているのだが、まだ『法の原理』は読んでいなかった。すぐ読もう。

また、近代国家の原則として「権力は一つ」ということをホッブズは強調するのだが、その見解がプラトン『国家』やプロティノスに由来するなんてことはあるのか。プラトン『国家』は、最高の善は「一なること」と言っている。社会契約論がエピクロスに由来するなら、「権力は一つ」の出自もギリシアにあっておかしくない。

ルネサンスと宗教改革を総合したということで「ホッブズこそが封建から近代へと転換する思想を最初に構築した」(p.51)と書いてあるけど、真に受けて言質にして引用しても学会的に大丈夫ですか?

そして、ホッブズが構想する国家の基本単位が、従来の家族やポリスやギルドといった集団ではなく、「個人」であるとされているが(p.88)、本当に個人主義は貫徹されているのか? 少なくとも『リヴァイアサン』では、明らかに男性を中心とした「家父長制家族」を前提としているように読めるのだが。

【感想】personalityの近代的用法の起源に関して、ホッブズは避けて通れない超重要人物に違いないという認識がますます強まってきた。

田中浩『ホッブズ―リヴァイアサンの哲学者』岩波新書、2016年