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教育概論Ⅰ(栄養)-2

▼短大栄養科 4/25

前回のおさらいと補足

・立場によって「学校」に期待する機能が異なる。自営業/資本家/労働者
・「子供/大人」の境界線が、今と昔では異なっていた。

生理的早産

・人間以外の高等哺乳類は、誕生してからすぐに親と同じような行動をとることができる。しかし人間の赤ん坊は「能なし」で生まれてくる。高等哺乳類の例に習うなら、人間はあともう一年は母親の胎内にいる必要がある。
・この一年早く生まれてくることを「生理的早産」と呼ぶ。この現象こそが、人間を人間たらしめているという仮説。
・生物学的・自然科学的な過程によって必然的に成長が決められるのではなく、歴史的・文化的な過程によって選択的に成長が決まる。ここに人間らしい「個性」が生まれる。
【参考文献】ポルトマン『人間はどこまで動物か』

人間はどこから人間か?

・「7歳」という境界線。埋葬、捨て子、マビキ。
・妊娠中絶は殺人か? →昔と今とでは、「なかったことにする」という意味で、やっていること自体は変わらない。単に「どこから人間か」という境界線が移動している。

「形成」と「教育」の違い

・「教育」はなかった。
・「学校」がなかったころも人々は人間形成を行っていた。「教育」と異なる形態の人間形成のことを専門用語で「形成」と呼ぶ。

形成と教育の違い
カテゴリー形成(前近代)教育(近代)
【何を習得するか】カンとコツ知識と教養
【どこに修めるか】身体
【どうやって伝えるか】行動文字
【規範意識】恥じ・しつけ公共性・道徳
【根拠】経験と仕来り科学と合理性
【指導する人】村落共同体資格を持った教師
【見える光景】背中
【労働との関係】労働と一体労働と分離
【祭祀との関係】祭祀と連続祭祀と分離
【遊びとの関係】遊びと連続遊びを排除
【カリキュラム】実践的・偶然的意図的・計画的
【行政】自治中央集権
【大人の条件】一人前人格の完成
【人間像】身分・地域の特殊性普遍的人間

・徒弟制。ギルド。親方-弟子の関係。疑似親子関係。
・昔の子どもは活き活きしていた? →子どもが変わったわけではない。子どもを取り巻く環境のほうが変化したと考えれば、理解できる。
・昔のお父さんは尊敬されていた? →お父さんが変わったわけでも、子どもが変わったわけでもない。労働と教育のあり方が変わったことを考慮すれば、理解できる。
・どうして「形成」ではなく「教育」が必要となったのか? →お父さんと一緒の職業に就くなら「形成」で問題ないが、別の職業に就く場合には「形成」はむしろ意味がなくなる。

イニシエーション

・日本語では「成人式」や「通過儀礼」とも呼ばれる。
・大人の仲間入りをするために、全ての若者が突破しなければならない試練。日本だけではなく、世界全体に共通して見られる。
・「死」と「再生」。

若者組……学校がない世界での人間形成

・家族との分離(親離れ、子離れ)と、年齢別集団への加入。女性の場合は「娘宿」など。
・「家族」でも「学校」でもない場所における人間形成のかたち。
・集団労働力の提供、祭礼や村芝居の執行、消防・警察、性や結婚の管理。
・「死」と「生=性」。

復習

・前近代の人間形成の特徴を、学校の教育と比較してまとめておこう。
・「学校」で行われる教育の特徴をまとめておこう。
・「イニシエーション」について、具体的な例を調べよう。
・現代の「成人式」との違いを考えてみよう。

予習

・西ヨーロッパの歴史について、高校までに習った世界史の知識をおさらいしておくこと。

【要約と感想】佐野賢治『ヒトから人へ』

【要約】人間が「大人になる」までの成長過程に関わるトピックを連ねた、民俗学のエッセイ集。高度経済成長の過程で急激に失われていった様々な日本の習俗を、柔らかい筆致で蘇らせ、読んでいて温かな気持ちになる本だ。

思ったこと=現在、「大人になる」ということの条件がとてもわかりにくくなっている。かつては「労働」や「結婚」という見えやすい物差しがあった。本書は、「一人前」という尺度で、かつての日本の習俗を描き出す。ひるがえって、現在において「大人になる」とはどういうことか、考えるきっかけを与えてくれる。

とはいえ、解決法は、失われたものを単に取り戻すということではないだろう。急激に変化した世界に対応した新しい「大人の条件」というものがあるはずで、かつての「大人」を復元すれば解決するという単純な話ではない。本書も単なるノスタルジーに陥っている記述が散見されて、少し気にはかかった。まあ、掲載紙とテーマと対象読者を考慮すれば、本書はそれでかまわないのだけれども。

佐野賢治『ヒトから人へ―“一人前”への民俗学』春風社、2011年

【要約と感想】芳賀登『成人式と通過儀礼』

【要約】昔は、大人になるのは大変だったんだぞ。

【感想】教育勅語が一時期話題になったとき。これがあたかも日本の伝統的道徳かのように主張する人もいたけれど。こういう民俗学の本を読むと、実際には教育勅語が日本の伝統的習俗の否定の上に成立していたものだということが分かる。

本書は、「成人式」や「成女式」を中心に、日本において「大人になる」ということが、かつてどういうことだったかを明らかにしようとしている。そして「若者組」や「娘組」の実践を振り返り、村落共同体全体での「しつけ」の重要性を強調している。この村落共同体全体での「しつけ」が、明治政府による一連の政策によって失われていったことを、丁寧に示していく。盆踊りや若者組の禁止など、自然村から行政村への転換の過程で失われた伝統は数知れない。
(1945年の断絶を強調する人々がいるけれど、それは1868年の破壊的な断絶に意識的であった時に初めて説得力を持つはずだ。教育勅語は日本の伝統的な姿を引き継いではいない。それが儒教的価値を近代的価値で装った「明治」という特殊的な時代状況において一定の役割を果たしたことは間違いないだろうが。)

しかし本書は同時に、前近代の習俗が示す非人間的な残虐性に対する戸惑いを隠していない。特に女性を奴隷のように扱う伝統的習俗は、修正されて良かったと言う。近代を評価するのか、それとも批判するのか、著者の立場は一貫せず、最後まで価値判断は揺れている。

したがって、同じ話が何度も執拗に繰り返されたり、話題が飛躍したり、行論がブレまくって、立場が一定しない。しかし論理的な破綻は、一つの判断基準では裁断できない主題に対する著書の誠実さの現れなのかもしれない。

芳賀登『成人式と通過儀礼―その民俗と歴史』雄山閣、1991年

流通経済大学「教育学Ⅰ」(3)

■龍ケ崎キャンパス 4/24(月)
■新松戸キャンパス 4/28(金)

前回のおさらいと補足

・立場によって「学校」に期待する機能が異なる。自営業/資本家/労働者
・「子供/大人」の境界線が、今と昔では異なっていた。

生理的早産

・人間以外の高等哺乳類は、誕生してからすぐに親と同じような行動をとることができる。しかし人間の赤ん坊は「能なし」で生まれてくる。高等哺乳類の例に習うなら、人間はあともう一年は母親の胎内にいる必要がある。
・この一年早く生まれてくることを「生理的早産」と呼ぶ。この現象こそが、人間を人間たらしめているという仮説。
・生物学的・自然科学的な過程によって必然的に成長が決められるのではなく、歴史的・文化的な過程によって選択的に成長が決まる。ここに人間らしい「個性」が生まれる。
【参考文献】ポルトマン『人間はどこまで動物か』

人間はどこから人間か?

・「7歳」という境界線。埋葬、捨て子、マビキ。
・妊娠中絶は殺人か? →昔と今とでは、「なかったことにする」という意味で、やっていること自体は変わらない。単に「どこから人間か」という境界線が移動している。

「形成」と「教育」の違い

・「教育」はなかった。
・「学校」がなかったころも人々は人間形成を行っていた。「教育」と異なる形態の人間形成のことを専門用語で「形成」と呼ぶ。

形成と教育の違い
カテゴリー形成(前近代)教育(近代)
【何を習得するか】カンとコツ知識と教養
【どこに修めるか】身体
【どうやって伝えるか】行動文字
【規範意識】恥じ・しつけ公共性・道徳
【根拠】経験と仕来り科学と合理性
【指導する人】村落共同体資格を持った教師
【見える光景】背中
【労働との関係】労働と一体労働と分離
【祭祀との関係】祭祀と連続祭祀と分離
【遊びとの関係】遊びと連続遊びを排除
【カリキュラム】実践的・偶然的意図的・計画的
【行政】自治中央集権
【大人の条件】一人前人格の完成
【人間像】身分・地域の特殊性普遍的人間

・徒弟制。ギルド。親方-弟子の関係。疑似親子関係。
・昔の子どもは活き活きしていた? →子どもが変わったわけではない。子どもを取り巻く環境のほうが変化したと考えれば、理解できる。
・昔のお父さんは尊敬されていた? →お父さんが変わったわけでも、子どもが変わったわけでもない。労働と教育のあり方が変わったことを考慮すれば、理解できる。
・どうして「形成」ではなく「教育」が必要となったのか? →お父さんと一緒の職業に就くなら「形成」で問題ないが、別の職業に就く場合には「形成」はむしろ意味がなくなる。

イニシエーション

・日本語では「成人式」や「通過儀礼」とも呼ばれる。
・大人の仲間入りをするために、全ての若者が突破しなければならない試練。
・「死」と「再生」。

若者組

・家族との分離と、年齢別集団への加入。
・「家族」でも「学校」でもない場所における人間形成のかたち。
・集団労働力の提供、祭礼や村芝居の執行、消防・警察、性や結婚の管理。
・「死」と「生=性」。

復習

・前近代の人間形成の特徴を、学校の教育と比較してまとめておこう。
・「学校」で行われる教育の特徴をまとめておこう。
・「イニシエーション」について、具体的な例を調べよう。
・現代の「成人式」との違いを考えてみよう。

予習

・西ヨーロッパの歴史について、高校までに習った世界史の知識をおさらいしておくこと。

【要約と感想】斉藤研一『子どもの中世史』

【要約】昔の子供は、今よりも過酷な環境に置かれていました。

【感想】「昔の子供はこうだった」などと安易かつ軽率に発言してしまう人たちがいるけれども。実際のところ、昔の子供がどういう生活を送っていたのか、総体的かつ包括的に理解して言及している人はほとんどいない。大半が自分の狭い経験と独断的な思い込みを最大限に理想化して垂れ流しているに過ぎない。

かくして、現実の子供問題を適切に判断するためにも、昔の子供が実際にどういう生活を送っていたのか、知識と教養として理解しておく必要がある。歴史的な深みを知ることで、さらに広い視野から現実問題を捉えることができるようになる。本書は個別的なテーマを掘り下げることで、中世の子供たちの現実の様相に様々な角度から光を当てている。

出産の時のおまじない、子供の安全を祈願する習俗、御守りなど、子供の健やかな成長と発達を願う事例に加えて、子供の人身売買、捨て子、子供の連続誘拐殺人事件の多発、子供の地獄など、昔の子供が過酷な状況に置かれていたことも明らかになる。事実を知るにつけ、「昔の子供は…」などとは、もはや安易には言えなくなっていく。

このような歴史学の成果を現実にどう活かしていくかは、教育学の仕事になる。がんばりましょう。

斉藤研一『子どもの中世史 (歴史文化セレクション)』吉川弘文館、2012年<2002年