【要約と感想】北村陽子編著『職業教育とジェンダーの比較社会史』

【要約】比較教育社会史研究会のアンソロジーで、19世紀後半~第一次世界大戦の日本・ロシア・イギリス・ドイツにおける、女性と戦争障害者に対する職業教育と就労支援を対象としています。19世紀末の段階では、日本に限らず女性のキャリアとして考えられるものは学校(しかも初等段階)の教員くらいしかありませんでしたが、家庭重視の立場と労働力重視の立場の間で緊張が高まりつつありました。
 戦争障害者に対するケアと配慮は第一次世界大戦以降に喫緊の課題となり、各国で再教育と就労支援が模索され、現代の福祉行政に繋がっていきます。

【感想】研究対象となる時期については私の専門と同じくするが、地域と対象については盲点となっているものばかりで、たいへん勉強になった。というか、王道本流の教育学理論が見てこなかった、見えなかった、見ようとしなかった対象であって、ここを突き詰めていくことで「教育」という概念そのものが溶けていく。あるいは逆に、急激に発達する資本主義と国民主義(まとめると「近代」)に伴う包摂と排除のメカニズムの中で「教育」という概念の輪郭が引かれ、外部に押し出されたものが見えなくなったと考えるところか。
 ともかく、たまには自分の興味関心とは異なる領域の研究成果に触れなければいけないことは間違いないのだった。

北村陽子編著『職業教育とジェンダーの比較社会史―近現代における女性と戦争障害者の就労支援』昭和堂、2025年