【要約と感想】R.W.B.ルイス『ダンテ』

【要約】初期ルネサンス期イタリアの詩人ダンテの伝記で、主著『神曲』の概要も紹介します。

【感想】「ルネサンス」という概念について思案するための材料を得ることを期待して手に取ったけれども、そういう期待に直接応えるような本ではなく、堅実にダンテの生涯と著書の概要をまとめた本だった。それはそれで勉強になったからいいのだけれど。
 まあ改めて、フィレンツェという街が13世紀後半あたりから何かおかしなことになっていることは理解した。トスカーナ方言という「俗語」で文学を著すこと、そしてそういう著書が印刷術発明前にも関わらず速やかに流布すること。他の地域では不可能だったことが、どうしてフィレンツェ(あるいはトスカーナ)で可能だったのか。いわゆる12世紀ルネサンス(特にイスラムと融合したシチリア周辺の文化)との関係はどうだったのか。そのあたりの事情に対する具体的な理解が、いわゆる「ルネサンス」という概念を掴む(あるいは却下する)には不可欠のようだ。

R.W.B.ルイス『ペンギン評伝双書 ダンテ』三好みゆき訳、岩波書店、2005年