【要約と感想】川口俊明『全国学力テストはなぜ失敗したのか―学力調査を科学する』

【要約】毎年行われている全国学力テストは、社会科学の専門的な知見がまったく反映されておらず、いきあたりばったりで思いつきレベルの設計がされているので、そもそも「学力」を測れていません。失敗するに決まっています。
まともな学力調査にするためには、実態を把握することの大切さを理解した上で、「政策のためのテスト」か「指導のためのテスト」かねらいを明確にし、何を測定するのか目的と手法を科学的に明らかにしましょう。

【感想】全国学力テストについて、表面的な現象については理解していたつもりだったけれども、原理的なところで勉強になった。大学で教職課程を担当する教員としては、ところどころで苦言を呈されており、背中に冷や汗をかくような本ではある。
私の担当は「教育課程論」なので、授業で「評価」に関する内容を扱う。もちろんPISA調査や全国学力テストについても扱うものの、表面的な話をするだけで時間がなくなってしまう。「評価」の話に当てられる時間は全14回の講義のうち2回だけなのだ。この2回で目指しているのは、「妥当性」と「信頼性」という概念(学習指導要領にも出てくる言葉だね)について学生諸君に理解してもらうことだ。毎年試行錯誤を重ねているけれども、いや、なかなか大変なのだった。来年度は、本書も踏まえて、少なくとも自分の授業では科学的なものの見方を伝えていきたいと思ったのであった。まず授業で示す参考書に本書を挙げておこっと。

まあ、全国学力テストに限らず、1990年代以降、実態把握に基づかないで、思い込みと妄想と願望だけが先走る意味の分からない教育改革が次々と実行され、現場が疲弊しきっている。経済(新自由主義)と政治(新保守主義)の圧力で教育の商品化が急激に進行し、公教育の基盤が掘り崩され、格差の拡大に拍車がかかっている。教育を商品化して金儲けしようとする勢力と、妄想・願望に基づいて思いつきでいきあたりばったりの教育改革を進めようとする勢力に挟み撃ちにされて、本質的・批判的・科学的に教育を考えようとする層が痩せ細っている。教員を志望する学生も減っている。
私個人にできることは、教職課程の授業の中で、本質的・批判的・科学的にものごとを見るとはどういうことかを示し続けることだ。本書が扱っている「全国学力テストの失敗」は、具体的な事例として学生にとっても身近で分かりやすいような気もする。まず「学力って何?」ってところから考えてもらうのがいいかな。とりあえずシラバスを書くか……

川口俊明『全国学力テストはなぜ失敗したのか―学力調査を科学する』岩波書店、2020年