【要約と感想】レナード・サックス『男の子の脳、女の子の脳―こんなにちがう見え方、聞こえ方、学び方』

【要約】男の子と女の子では、生物学的に脳の構造が異なっています。よって、同じ対象を見ても聞いても、感じ方や対応が異なります。男の子が乗り物など動くものに興味を持ち、女の子が華やかな色のものに興味を示すのは、脳の構造から導かれる自然な行動です。男女差は文化によって作られたのではなく、生物学的な根拠に基づいています。
この事実を知らないと、不適切な指導を加えてしまい、取り返しがつかない結果を招きます。男女の性の特質をよく踏まえて、もっとも効果的な働きかけを行なうよう、務めるべきです。男女別の教育を推進したほうが、ジェンダー・フリーな世界に近づくでしょう。

【感想】90年代頃からフェミニズムの論理に冷や水を浴びせかけているのが、本書に代表されるような進化心理学の立場である。男女の性差が文化的に生み出されたと主張するフェミニズムを、進化心理学は自然科学的な手法から徹底的に否定する。男女差は生物学的な基礎に基づく自然なのだと言う。特に脳の構造が決定的に違っているのだと言う。
まあ、自然科学的な根拠を持って言われてしまうと、なかなか否定するのも大変なわけだ。

とはいえ、本当の話は、そこから始まるのだろう。仮に自然科学的に男女差が存在しているとして、それはもちろん優劣の差を意味するのではない。単に「持ち味」の差であると理解するべきところだ。そしてもし「持ち味」の差が優劣の差に結びつくのだとしたら、どこかで何かが間違ってしまった可能性が高い。そして、どこで何が間違ってしまったかを判断するのは、進化心理学に期待される役割ではない。進化心理学が自然科学の手法にこだわるのであれば、価値判断の領域には越境してきてはならないのが原理原則のはずなのだ。

レナード・サックス『男の子の脳、女の子の脳―こんなにちがう見え方、聞こえ方、学び方』草思社、2006年