【要約と感想】岩竹美加子『フィンランドの教育はなぜ世界一なのか』

【要約】フィンランドでは、子どもの権利を尊重し、自立に向けて手厚い支援を行ない、学費無償など、親の教育負担は軽いです。いじめ防止に真剣で、人権感覚を土台にした性教育を徹底し、PTAのような組織も自由です。兵役義務もありますが、大学進学は個人の適正に応じています。
 そんなわけで、世界一です。

【感想】日本との比較に関しては、人口規模が違いすぎて単純な比較は正直難しいように思っているのだが、もちろん一つの例として参照するぶんには極めて興味深い。日本人の旧来の価値観(教育に限らず)を大きく揺さぶるような国が実際に存在していることを知るのは、悪いことではない。

【個人的な研究のための備忘録】
 国家と個人のパラレルな関係についての記述が、興味深かった。

「フィンランドで、国家と人は相似形だと思う。国家が独立し、自由で自立、自己決定権を持ち、不可侵であるように、人も独立し、自由で自立、自己決定権を持ち、不可侵である。人は、近代国家に付与される特徴を共有している。人と国家は、並んでいて共にある感じだろうか。また、共に権利と義務を持つ。」226頁

「近代」において国家と人が相似形になることは、理論的に言えば「人格」の理論に帰着するはずだ。近代国家は「人格」を持つのだ。
 私はライフワークとして「日本に人格概念が定着した経緯」を探っているわけだが、やはりまず国家の独立と個性に対する認識が成立して、その相似形として人間の独立と個性に対する認識が発生するように見えている。だいたい明治半ばの話だ。(史料で実証することが極めて難しく、難渋しているのだが)
 本書が「国家と人は相似形」だと言明したところは、なかなか勇気づけられる。

岩竹美加子『フィンランドの教育はなぜ世界一なのか』新潮新書、2019年