【要約と感想】藤川大祐『いじめで子どもが壊れる前に』

【要約】いじめはどの学校、どの学級でも起こりえます。完全に撲滅することは不可能でしょうが、重要なのは、深刻化させないことです。
そのために、授業にディベートを取り入れて、多様な考えを受け入れられるような子どもに育てましょう。子どもの「観測気球」に臨機応変に対応しましょう。過去の教訓から学び、危機管理の原則を踏まえた学校運営と学級経営をこころがけましょう。深刻な場合は、警察との連携を躊躇してはいけません。

【感想】本書の特徴は、教育方法学の立場からの考察にあるのだろう。教師の日々の授業実践が、いじめの発生に関わってくるという観点だ。教科書に書いてある決まり切った答えを一方的に教え込み、できるかできないかで子どもたちを差別し、子どもを見下すような教師の下では、自然といじめが発生しやすい条件になるということだ。まあ、そうなんだろう。
逆にというか、それゆえにというか、他のいじめ論者が主張するような「人権教育」とか「子どもの権利条約の精神」とか「加害者への徹底指導」とか「被害者の回復プロセス」とか「事実確認の手法」とかいう話は、極めて弱い。そのあたりは別の本で参照すればよいだろう。

【言質】
「アイデンティティ」と「個性」という言葉の用例サンプルを得た。

「この時期、すなわち思春期から青年期の子どもたちにとって重要な課題は、アイデンティティの形成です。アイデンティティとは自我同一性などと訳されるもので、他者とは異なる、かけがえのない存在としての自分ということです。」(122頁)
「「個性尊重」などという使い古された言い方をすると誤解を招きそうですが、個々の子どもが劣っている部分も含めて自分らしさを発揮し、そのことを受け入れられるようにしていくことが重要です。」(124頁)

「個性尊重」という言葉に対して、使い古されて誤解を招くという認識を示しているのは、なかなか興味深い。サンプルとして確保しておきたい。
アイデンティティに関しては、「存在」という言葉を著者がどのように認識しているかが気になるところではある。

藤川大祐『いじめで子どもが壊れる前に』角川oneテーマ21、2012年