【要約と感想】諸冨祥彦『教室に正義を!―いじめと闘う教師の13か条』

【要約】いじめは、まず被害者を救済することが一番大切です。特に近年では自己中心的で攻撃的な子どもがいじめ被害者になっていますが、「いじめられた方が悪い」と決めつけるのではなく、被害者に寄り添っていきましょう。
いじめをなくすために決定的に重要なのは、「正しいことは正しい」と声を上げることができる環境づくりです。父性的な「正義の感覚」に満ちた学校を作りましょう。

【感想】2007年出版ということで、ゼロ・トレランスが大流行している時期に出た本だ。その影響が色濃くあるように思う。具体的には、出席停止をためらわないとか、「父性」の礼賛や、加害者への教育的指導の観点が極めて弱い点だ。そういう意味で立場と限界が分かりやすい本ではあると思う。
そういう限界を理解した上で読めば役に立たないこともないが、真に受けるといろいろと上手くいかない可能性があるようにも思う。特にネットいじめの現実にはまったく対応していないし、むしろ炎上しやすい立場に見えるので、注意が必要だ。正義の共同体は、容易に「排除」の構造を作りだし、排除されたルサンチマンはアングラへと向かう。歴史が証明している。
個人的には、「正義」を安易に前面に打ち出すのは、かなり危険な気がしている。著者も気がついているようだが、「正義」は容易に「教育的動機によるいじめ」を蔓延させる土壌になるからだ。「正義」は、扱いが難しい。
被害者に寄り添うという観点ではとてもいいことがたくさん書いてある。そこは学んでいきたい。

諸冨祥彦『教室に正義を!―いじめと闘う教師の13か条』図書文化、2007年