【要約と感想】平井尚一『高校の授業でとりあげたオオカミ少女の物語』

【要約】オオカミに育てられた2人の少女をインドの牧師夫妻が愛情をもって人間性を引き出した話を授業で語り続けたら、生徒たちが感動しました。

【感想】まず客観的に確認しておかなければならないことは、「オオカミ少女」の話には捏造の疑いがかけられていることである。そして、科学的に考えた場合は、捏造の可能性が極めて高いということである。牧師夫妻の話そのものが仮に真実であったとしても、本当にオオカミに育てられたかどうかは別の話ということも認識する必要がある。

話そのものに関わる客観的な状況が確認できたなら、次に確認しなければならないことは、「仮に捏造された可能性が高い教材として、生徒たちに良い影響を与えるから大目に見るべき」なのかどうかという、教育的な観点である。「水に優しい言葉をかければ綺麗な氷になる」とか「江戸しぐさは素晴らしい」という科学的根拠が極めて低い話を、単に「いい話」だからという理由で道徳の教材として使用していいかどうかという問題である。

まあ、常識的な観点からも、科学的な観点からも、教育的な観点からも、ダメだろう。著者自身が善意の塊であることを思うと、モニョってしまう結論ではあるが。

こういう問題は、オオカミ少女の話に関わらず、身近なところに溢れている。教育に関わるものは(あるいは関わらないものでも)、常にアンテナを高く掲げている必要がある。謙虚に学び続けなければならない。

平井尚一『高校の授業でとりあげたオオカミ少女の物語』あけび書房、2014年