【要約と感想】山脇由貴子『震える学校―不信地獄の「いじめ社会」を打ち破るために』

【要約】いじめが起こるのは、子どもたちが大人たちを信頼していないからです。大人同士が信頼を失っているからです。いじめは、信頼が欠けている隙間に忍び込んできます。
信頼を取り戻すために、情報を公開しましょう。コミュニケーション量を増やしましょう。強い大人になりましょう。

【感想】個人的には、各種様々のいじめ関連本の中で、いちばん説得力を感じる本だ。定義をもてあそんだり社会の変化を云々する本より、ストレートに腑に落ちる。私も著者と同じく、いじめをなくすためには、大人と子どもの信頼関係を取り戻すことがいちばん重要だと思う。そしてそのためには、大人と大人の信頼関係を築くことが大切だということにも、激しく頷く。

いわゆる「ネットいじめ」に関しても、的外れな分析をするいい加減な本が多い中、本書の考え方にいちばん説得力を感じる。本書で明示されたように、「先生ですらいじめの対象となる」ということが、ネットいじめの本質なのだ。
いじめが匿名性を帯びるようになってから、強いものや権力をもつものが「ネットいじめ」の対象となるようになった。弱いものや権力をもたないものの僻みや嫉みやストレスが、強いもの(先生ですら)の誹謗中傷に捌け口を見出す。従来のような「弱いものいじめ」の感覚では、ネット時代のいじめの特質を見失う。
むしろ、「いじめを行なうのは弱い精神」という従来からの知見を活かせば、現状の「ネットいじめ」を主導しているのが「弱いもの」だということに容易に気がついていいはずだ。弱いから、匿名でしか吠えられないのだ。この単純な事実に気がつかない「自称ネットいじめ分析」が蔓延していて、辟易する。
しかしだとすれば、子どもたちの日常に安心と安全がもたらされ、「自分は弱くない」と信じられれば、「弱いもの」による匿名的ないじめがなくなるのも当然なのだ。

もう一方で、「強いもの」によるいじめに対しては、従来通りの対応をしていく必要がある。こちらのタイプは、むしろ「いじめ」というより、恐喝とか傷害とか詐欺といった言葉を当てはめるほうが相応しいのだろうが。

山脇由貴子『震える学校―不信地獄の「いじめ社会」を打ち破るために』ポプラ社、2012年