【要約と感想】高橋惠子『子育ての知恵―幼児のための心理学』

【要約】子育てに関して、世間ではいい加減なデタラメが流布しています。子育ての責任を家族が専ら負うべきだという意見には、何の根拠もありません。特に、母親との愛着形成が将来を決定するなどという母親偏重説は、実証的に否定されています。そんなものは18世紀頃に人工的に作られた物語に過ぎません。
また、「幼児期決定説」は実証的には確認されていません。愛着形成が幼児期にのみ可能だという証拠もありません。子どもを保育園に預けても、母の手で育てても、育ちにたいした違いは確認できません。
大事なことは、子どもを一人の独立した人間として扱うことであり、同時に大人も一人の人間として充実した生き方をすることです。家族が子育てで特別にがんばる必要はありません。そして子育てを家族の自己責任にするのはもはや無理なので、社会全体で育てていくという意識を持つことが大切です。

【感想】私個人にとっては、とても勇気が出る本であった。子どもが愛着形成をするときに、母親が重要なわけでもなく、実の親である必要もなければ、幼児期に達成しないと手遅れになることもない。この知見は、とてもありがたい。無用なプレッシャーを受けて苦しんでいる子育て世代全体にとっても、勇気が出る本なのではないだろうか。
そして子育てを家族の自己責任とするのではなく社会全体で担っていく必要があるのだという視点にも、膝を打つ。まさにその通りだと思う。家族を孤立させず、子どもたちを社会のネットワークに組み込んでいく仕組み作りが、今後ますます重要になっていく。
私も微力ながら頑張りたいと思う。

高橋惠子『子育ての知恵―幼児のための心理学』岩波新書、2019年