教育原論(保育)-9

前回のおさらい

・ニセモノの自由からホンモノの自由へ。カントの教育論。
・憲法の意義。教育基本法の性格。

今回の目標

・「人格」について深めよう!

人格の完成

・教育基本法第一条に、教育の目的は「人格の完成」であると書いてありました。
人格とは何でしょうか? 目に見えないし、触ることができないし、科学的に存在を確かめることもできません。
・「好き」と「愛してる」という言葉の意味の違いをヒントに考えてみましょう。

 好き愛してる
個性代わりがある代わりがない
タイプ言える言えない
数値化表せる表せない
アイデンティティ変わる変わらない
様相主観的な感情存在のあり方
対象モノ(純粋理性)人格(実践理性)

・人格とは、代わりがなく(個性)、変わらない(アイデンティティ)ような何かのようです。

個性

・個性=Individualityの翻訳語です。
・長所とか特徴とか持ち味などという言葉とはニュアンスが異なります。
・「個々の性質」ではなく「個であることの性質」と考えます。
・たとえば眼鏡はどうして眼鏡なのでしょうか?←「はたらき」でまとまりがあります。
・「人間のはたらき」とは何でしょうか?
・「私のはたらき」とは何でしょうか?

アイデンティティ

・日本語では「自我同一性」や「存在証明」などと訳されることがあります。「あの私」と「この私」が一致していることを証明したいときなどに用いられます。「IDカード」=Identity card。
・自同律(principle of Identity):「A=A」「わたし は わたし」
・この世に変化しないものなどあるでしょうか? 「A→A’」
・私は常に変化し続けている(新陳代謝)にも関わらず、どうして常に「わたしはわたし」と言うことができるのでしょうか?
・わたしの属性について考えてみましょう。A=X、A=Y、A=Z・・・・。常に一致しているのは何でしょうか? 主語と述語の関係に注目してみましょう。
・常に主語である何かにはアイデンティティが成立していそうです。
・述語に重点を置くか、主語に重点を置くかで、同じ文章でも世界の見え方や関わり方が異なってきます。
・たとえばソクラテスは、本当の幸せとは「わたしが常にわたしであること」と言っています。

自己実現

・どのように人格は完成へと向かうのでしょうか。
・自己実現≒ほんとうのわたしデビュー、わたしらしいわたし。本物の幸せ。社会的な成功とは基本的にはあまり関係がありません。
・弁証法的発展:自己耽溺(自己中心主義)と自己疎外(世間中心主義)の葛藤から、自由で主体的な決断を経て、責任を引き受けて、自己実現へ向かいます。
・直線的な発達ではなく、矛盾と葛藤が連続する、ジグザグの成長です。
・「自分こわし」と「自分つくり」の連続によって、人格が完成へと向かいます。

人格形成の基礎を培う

(幼児期の教育)
第十一条 幼児期の教育は、生涯にわたる人格形成の基礎を培う重要なものであることにかんがみ、国及び地方公共団体は、幼児の健やかな成長に資する良好な環境の整備その他適当な方法によって、その振興に努めなければならない。

・人格:否定しない。主語を否定するのではなく、述語を叱る。たとえば叱る時は「行動」を叱る。「嫌い」と「愛してる」は両立する。
・個性:一人の人間として相対する。
・アイデンティティ:自主自律の精神を重んじる。述語ではなく主語をほめる。
・自己実現:夢を大事にする。チャレンジ精神を応援する。
・自由:できることを増やす。自分たちでルールを作る。

復習

・「人格」や「個性」、「アイデンティティ」、「自己実現」という言葉について考えを深めよう。

予習

・「義務教育」について調べておこう。

発展的な学習の参考

人格とは何か?
個性とは何か?
アイデンティティとは何か?