【要約と感想】アウグスト・クリ『素晴らしい親 魅力的な教師』

【要約】これまでの教育のやり方は決定的に間違っていました。現代の子どもたちは、過剰で刺激的な情報を浴びて、感情と思考が麻痺しています。人間の記憶がコンピュータの記憶と異なることを理解して、「情報」を教えるのではなく「人格」を創る教育に変えれば、必ず子どもは幸せになります。世界が変わる鍵を握っているのは、教師です。

【感想】読み始める当初は、ありがちな自己啓発系教育論かと先入観を持っていたけれど、読み終わった今となっては大感動なのであった。これは世界中の教師に贈られた応援歌だ。ありがとう、ありがとう。教師の仕事を続る力を、私も受け取った。

【今後の個人的研究のための備忘録】
本書には「人格」という言葉が決定的に重要な概念として何度も登場する。原語がpersonalityかcharacterか気になるところだけど(雰囲気からするとおそらくcharacterか)、まあ自分で原書に当たろう。

「私たちは、子どもたちに感情を教えることも、人間にとってとても大事な知的活動―例えば美しいものを愛で、行動する前に考え、考え方を押しつけられることなくそれを表現し、理性を培い、積極的な精神を育てる―を促すこともしていません。情報を与えるだけで、子どもたちの人格を創っていないのです。」(13頁)

「では、親の人生を教えることが、子どもの人格形成に不可欠なのはなぜでしょう。」(19頁)

個性はなくてはならないものです。というのも、個性こそ人格のいちばん基本的な部分だからです。」(24頁)

「普通の親は子どもの成長に気を遣い、健康によい食事を与えます。素晴らしい親はさらに、子どもの人格には精神的滋養が欠かせないことを知り、知性と心をゆたかにするものに気を遣っています。」(27頁)

「まず感情の領域を乗りこえなければ、試行の領域に影響を及ぼすことはできません。そこにいたって初めて、人格を形成している秘密の箱ともいうべき、意識と無意識の領域に働きかけることができるのです。」(36頁)

「ですから、知性の達人になってください。そして、子どもに考えることを教えてください。あなたの優れた人格を子どもの心に焼き付けるのです。」(39頁)

「教育者は、人格を作る職人であり、聡明な詩人であり、理想の種を撒く人である。」(61頁)

「記憶は人格を作る秘密の箱です。」(118頁)

人格は不変ではない。どんな経験を積んできたかによって人格は変わる。」(120頁)

「過去は消去できないので、新しい人格を見いだし、トラウマと情緒障害を乗り越えるためには、無意識の領域を再編集するしかない。」(125頁)

「コンピュータは生徒に情報を与えますが、生徒の人格を形成できるのは教師しかいません。」(157頁)

「本当のことを言えば、私たち全員がこの社会の犠牲者です。アイデンティティをどんどん失い、銀行の預金高やクレジット・カードの番号そのものとなり、潜在的消費者になっています。」(172頁)

こうして改めて要点を抜き出してみると、考え方の方向性自体はペスタロッチーの教育思想とよく似ているような気はしなくもない。知識の前に感情を大切にする姿勢とか。
とはいえ、最新の精神医学的知識に基づいた「記憶」と「情報」に関する知見が加わっているのは、決定的に新しいところかな。

アウグスト・クリ/古屋美登里訳『素晴らしい親 魅力的な教師』ポプラ社、2006年