教育原論(保育)-7

短大保育科 5/30・6/1

前回のおさらい

・ヨーロッパが強くなった経緯=大航海時代・宗教改革・ルネサンス←印刷術

今回の目標

・コメニウスの教育思想を知ろう!
・市民革命の経緯と理屈を踏まえて、「人格の完成」を目指すようになった理由を理解しよう!

リテラシーと学校の広がり

・印刷術の発明によって進んだのは、「知識の民主化」でした。それまで「知識」は王様や貴族や僧侶が独占するものでしたが、書物によって一般民衆がアクセス可能なものに変わりました。
・それまでは「身分」によって人生が固定していましたが、これからは「知識」によって人生が変わるようになります。
・人々は書物を通じて知識にアクセスするため、リテラシーを獲得しようとします。学校が自然に増加していきます。

*現代の知識の民主化:インターネットの普及によって「知識」を簡単に入手できるようになり、それまで「知識」を一方的に独占・発信していた学校や報道機関に対する不信感が高まります。
→もちろん16世紀ヨーロッパでも、新しい知識を獲得した人々は、それまで知識(そして権威)を独占していた王様・貴族や僧侶に対する不信感を高めていきました。
→不登校の増加やテレビ離れ、学校へのスマホ持ち込み等をどう考えるか。
*格差の拡大:新しい知識を持っているか持っていないかで、格差が拡大していきます。デジタル・ディバイド。

コメニウス Johannes Amos Comenius

・1592年~1670年。モラヴィア(チェコ)出身。プロテスタント(ヤン・フスのボヘミア兄弟団)。
・主著『大教授学』、『世界図絵』(世界初の絵本)
・キャッチフレーズ:近代教授学の父
・名言:全ての人に全ての事柄を教授する

小テスト

市民革命と社会契約論(17~18世紀)

市民社会:欲望の解放と制御

市民社会:身分社会を否定し、個人主義(欲望にまみれた利己的人間)を満足させることを優先して組み立てられた世の中のことです。
・経済的発展は「欲望の解放」によって促進されます。「欲望の制御」を厳しくしすぎると、世界は停滞してしまいます。
・しかし人間の欲望には際限というものがありません。解放された欲望は、そのままでは世界そのものを破壊してしまいます。実際に、ヨーロッパの16世紀と17世紀は宗教戦争や侵略戦争が続いて荒れ狂った時代となりました。
・人間の欲望を解放して、自分勝手な利己的人間だらけになって、なおかつ世界を破滅させないような方法はあるでしょうか? →民主主義

市民革命と社会契約論

・ヨーロッパの政治体制を決定的に変えた事件をまとめて市民革命と呼びます。王様や貴族などが倒され、僧侶の権威が低くなり、身分制がなくなりました。
*市民:農村の生産者ではなく、都市に暮らし、市場でお金を使う人々を指します。基本的にお金持ちです。
*革命:「一揆」と勘違いする日本人が多いですが、いわゆる一揆は支配者の交代を伴いません。支配階級が覆る事態を革命と呼びます。
*市民革命:ヨーロッパでは様々な地域と時期に革命が発生しましたが、全て共通して「市民」が支配者になる革命だったので、「市民革命」と呼びます。

市民革命重要人物政治思想書教育思想書
清教徒革命1642トマス・ホッブズ『リヴァイアサン』
名誉革命1688ジョン・ロック『市民政府論』『教育論』
アメリカ独立戦争1776トマス・ペイン『コモン・センス』
フランス革命1789ジャン・ジャック・ルソー『社会契約論』『エミール』

・市民革命には、それぞれ理論的指導者と代表的な政治思想書が関わっています。市民革命の理論的根拠となったのが、社会契約論と呼ばれる考え方です。ホッブズ『リヴァイアサン』→ロック『市民政府論』→ルソー『社会契約論』というように展開します。

社会契約の「社会」とは?

社会:もともと日本語には存在せず、sociaeyやassociationの翻訳語として普及しました。ヨーロッパで成熟した「個人」を土台として組み立てられた世の中を指します。
・伝統的な「共同体」と新しい「社会」では、集団優先か個人優先かで世の中の形が決定的に違ってきます。共同体では身分が固定して人々の役割が決まっていましたが、社会では個人の力によって役割や組み合わせを変えることができます。
*たとえば「日本は集団主義」と言う人がいますが、本当でしょうか? 「集団」の質の違いを押さえずに言って大丈夫でしょうか?

社会契約の「契約」とは?

・自由で平等な個人同士が合理的な判断を下した結果として成立する合意と約束のことです。自由や平等が損なわれ、合理的な意志と判断が存在しない場合には、契約は成立しません。
・身分や性別などの「属性」によって条件が変わるものは契約と呼べません。契約とは、属性に関係なく、自立した個人の意志と判断によって成立します。←「属性」とは関係ない、「自立した個人」を作らなければいけません。

新しい社会にふさわしい新しい教育

・個人を作る:「個人」とは、身分や性別等の特殊性にはまったく関係がなく、何の特殊な属性も持たない、普遍的な人間のことです。
・新しい社会を作ることは、必然的に、新しい社会にふさわしい新しい「個人」を作ることを意味します。だから新しい社会について考えた思想家は、それにふさわしい新しい「個人」についても考えるし、それにふさわしい教育の形についても構想することになります。

人格の完成をめざす教育

・人格の完成:普遍的な教育とは、人間を作る=人格の完成を目的とする教育です。
・自発的に広がったリテラシーの教育(日本の江戸時代や印刷術発明後のヨーロッパ)と、普遍的な人間を作るための教育(市民革命後のヨーロッパ)の違いを考えてみましょう。教育を受ける人や、教育の内容や、教育への国家の関与などが、どのように異なるでしょうか? →決定的な違いは、教育が「人間の権利」であると考えられるようになったことです。
・「人間の権利」としての教育とは、性別や才能や財産や地位などの特殊性に関係なく、あらゆる人間に共通する資質を育てることを目指す普遍的な教育です。知識を注入したり偏差値を上げるような教育でもなければ、または特定の職業を目指すような教育でもありません。

復習

・コメニウスの思想を時代背景とともに押さえよう。
・民主主義に必要な教育が、リテラシーの教育と決定的に異なることを押さえておこう。

予習

・「憲法」とは何かについて、「法律」との違いを中心に調べておこう。