【要約と感想】佐藤優・杉山剛士『埼玉県立浦和高校―人生力を伸ばす浦高の極意』

【要約】ホンモノのエリートに必要なのは、理系や文系などに関係なく、自分をマネジメントできる「総合知」です。受験勉強も含め、一見役に立たないようなことも、総合知を磨くのに役立ちます。文系でも数学を捨ててはいけません。

【感想】数学や理科を捨てるような受験テクニックに特化した新興進学校を揶揄しつつ、総合的な知力を磨く伝統的進学校(浦和高校も含め、灘や桜蔭)の教育方針を称揚している。まあ、私も御多分に漏れず地方公立名門校(愛知県立岡崎高校)を出て現役で東大(理科Ⅰ類)に合格している手合いではあるので、言いたいことは肌感覚で分かってしまったりする。数学を完全に捨てて私立文系に進んでも、確かに本書の言う「ホンモノのエリート」になることはないだろう。まあ、それが良いことか悪いことかは、また別の議論になるのだけれども。

本書で一番感心したのは著者が浦和高校の生徒に直接アドバイスするパートで、特に在日二世の子に話しかけた内容には不覚にもうるっときてしまった。とても良い大人のアドバイスだと思った。

とはいえ、著者(佐藤優)の見解には同意できるところと「おや?」と思うところが混在しており、本書でも「怪しいな…」と思ったところは何点かあるのだが、一番おかしいと思ったのは大学の「作問力」に関する話だ。著者(佐藤)は、大学は生き残りをかけて独自の大学入試問題を作るべきだと主張するのだが、現実の国際的・国内的なトレンドはAO入試全面導入に向かっている。一発入試で学力を推測するのではなく、高校生活全般で培った人間力を計測する方向に向っているのだ。そして加えて、大学が独自に入学許可基準を設定するのではなく、高校が設定した卒業認定基準に準拠する方向へと向っているのだ。本書は、こういう総合的な学制改革(大学カリキュラム改革+高校カリキュラム改革+大学入試改革)の情報をアップデートできていないように読めたのだが。さて、教育に関する「情報」に精通していないのは、私のほうなのかどうか。【参照:センター試験廃止で大学入試は「カオスな世界」になるのか?

佐藤優・杉山剛士『埼玉県立浦和高校―人生力を伸ばす浦高の極意』講談社現代新書、2018年