教育原論(栄養)-3

栄養科 5/7

前回のおさらい

・18世紀半ばから日本では子供の教育に関心が持たれるようになりました。どうして教育が必要なのか?←リテラシーを身につけると幸せになれるからです。
・身分の違いによって、藩校や寺子屋というふうに学ぶ場所に違いがありました。

今回の目標

・市民社会の成立によって、新しい教育が必要になったことを理解しよう!
・近代西洋教育思想の特徴をつかみ、現在の教育に繋がっていることを理解しよう!

民主主義の教育

市民社会の成立

・ヨーロッパの政治体制を民主主義の成立に向けて決定的に変えた事件を、まとめて市民革命と呼びます。
*市民:農村の生産者ではなく、都市に暮らし、市場でお金を使う人々を指します。基本的にお金持ちです。
*革命:「一揆」と勘違いする日本人が多いですが、いわゆる一揆は支配者の交代を伴いません。支配階級が覆る事態を革命と呼びます。
*市民革命:ヨーロッパでは様々な地域と時期に革命が発生しましたが、全て共通して「市民」が支配者になる革命だったので、「市民革命」と呼びます。

市民革命重要人物政治思想書教育思想書
清教徒革命1642トマス・ホッブズ『リヴァイアサン』
名誉革命1688ジョン・ロック『市民政府論』『教育論』
アメリカ独立戦争1776トマス・ペイン『コモン・センス』
フランス革命1789ジャン・ジャック・ルソー『社会契約論』『エミール』

・市民革命には、それぞれ理論的指導者と代表的な政治思想書が関わっています。政治に関わった人物が同時に教育理論書を書いていることにも注目しましょう。
・新しい世の中(民主主義)に変わったら、それに相応しい新しい教育が必要となります。それまでの身分制社会では、偉い人の言うことを聞いていれば問題がありませんでした。新しい世の中では、自分の頭で考え、判断し、行動する、自律的な人間でなければ生きていくことができません。
・どうして教育が必要なのか?←民主主義の世の中で幸せになるためには、誰かから命令されて動くような人間ではなく、自分の頭で考えて行動できる自律的な人間になったほうがいいに決まっているからです。
・身分や属性に縛られず、他人に動かされるのではなく、自律的な人間になることを「人格の完成」と呼びます。

憲法と教育の自由

・人格が完成した自律的な人間の権利を保障するために、憲法というものが存在しています。

思考実験:法律を破ったことはありますか?

・市民は、リーダーが作った法律に従う義務があります。法律を破ったときには、ペナルティが課されます。法律は、それぞれの市民が平和かつ幸福に暮らすことができるよう、選ばれたリーダーによって定められます。←自分たちが決めたことは自分たちで守りましょう=自律。
・市民は、法律を破ることはできますが、憲法を破ることはできません。法律と憲法は、どこがどう違っているのでしょうか?
・そもそも憲法を守る義務があるのは誰でしょうか?→日本国憲法第99条。
・憲法は市民に何を期待しているのでしょうか?→日本国憲法第97条と第98条。

『日本国憲法』第十章 最高法規
〔基本的人権の由来特質〕
第九十七条 この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。

〔憲法の最高性と条約及び国際法規の遵守〕
第九十八条 この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。
2 日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。

〔憲法尊重擁護の義務〕
第九十九条 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。

基本的人権

基本的人権:誰がリーダーになったとしても、絶対に人々から奪うことができない生まれながらの人間の権利です。性別や身分や才能などの特殊性に関係なく、あらゆる人が平等に持っている普遍的なものです。*確認:多数の専制の怖さ。
自由権:国家が侵害することができない、個人が持つ権利です。「国家からの自由」のことです。具体的には、身体の自由、財産の自由、居住の自由、職業選択の自由、教育の自由などなどがあります。
教育の自由:自分の子供をどのように教育するかは、国家から関与されることではありません。←信仰の自由:どのような思想信条を持つかについて、国家が個人に命令することはできません。

教育基本法と日本国憲法

・教育基本法は、1947年に日本国憲法と一体のものとして制定され、準憲法的性格を持つと考えられています。→つまり、教育基本法を守らなければいけないのはリーダーの側であって、一般国民は守らせる側ということになります。

近代西洋(18~19世紀)の教育思想

ロック John Locke

・市民革命、経験主義。
・1632年~1704年。イングランド出身。
・主著『市民政府論』(政治思想)、『人間悟性論』(認識論)、『教育論』あるいは『教育に関する一考察』(教育思想:翻訳が異なるだけです)
・キャッチフレーズ:紳士教育タブラ・ラサ(白紙説)
・名言:健全なる精神は健全なる身体に宿る。←まず体育(食物、睡眠、居住環境など)の重要性を強調しました。
・身分制を反映した古い教育を否定して、新しい市民社会を担う紳士(ジェントルマン)を作ることを目指す教育です。自発性を重視して詰め込み教育を否定し、大人になってから役に立つ習慣形成を重く見ました。

ルソー Jean-Jacques Rousseau

・市民革命、ロマン主義。
・1712年~1778年。ジュネーヴ出身。
・主著『社会契約論』(政治思想)、『人間不平等起源論』(政治思想)、『新エロイーズ』(恋愛小説)、『エミール』(教育思想)
・キャッチフレーズ:子どもの発見消極教育
・名言:万物を創る者の手を離れるときはすべてよいものであるが、人間の手に移るとすべてが悪くなる
・子供期の独自性を初めて主張しました。消極教育とは、書物による早期教育をいましめ、まず自然による教育(たとえば感覚の訓練など)を重視する姿勢を指します。また、思春期や青年期の持つ独特の意義について意識を向けたのも大きな特徴です。

カント Immanuel Kant

・1724年~1804年。ドイツ出身。
・名言「人間は教育されなければならない唯一の被造物である。
・大人になって自律性を獲得をするためには、子どものときにある程度拘束されたり外から知識を与えられたりすることが必要かもしれません。

ペスタロッチー Johann Heinrich Pestalozzi

・1746年~1827年。スイス出身。
・主著『隠者の夕暮』『シュタンツだより』『ゲルトルートはいかにその子を教えたか』『白鳥の歌』
・キャッチフレーズ:実物教授。直感教授。労作教育。3つのH(Hand、Heart、Head)=知徳体。
名言:「玉座の上にあっても、木の葉の屋根の蔭に住まっても同じ人間だ」=身分に関係なく、普遍的な人間を教育するということです。
・孤児や貧民の子供の教育を通じて、身分や階級に関わらない人間一般の教育原理を打ち立てました。ルソーが理論だけだったのに対して、ペスタロッチーは実践を通じて教育原理を明らかにしました。
・アメリカを経由したペスタロッチー主義(開発主義教育)は、明治初期に日本でも流行しました。

復習

小テスト
・時代背景を考慮しながら、各教育思想の本質を押さえよう。

予習

・義務教育とは何か、その導入経緯について調べておこう。特にコンドルセとオーエンの仕事を調べよう。

発展的な学習の参考

ジョン・ロック『教育に関する考察』:新しい時代にふさわしい紳士教育の形が示されています。
ジャン・ジャック・ルソー『エミール』:普遍的な「人間」をつくるという、まったく新しい教育の姿が描かれています。
ペスタロッチー『隠者の夕暮れ・シュタンツだより』:ペスタロッチーの教育思想のエッセンスが詩という形式で表現されています。
フレーベル『フレーベル自伝』:フレーベルの教育観の一端を伺うことができます。