【要約と感想】小林美希『ルポ保育格差』

【要約】どの保育園に入るかで、天国か地獄か、まったく環境が違ってきます。経営する法人や園長の方針によって、保育の在り方は何もかも違ってきます。
保育格差をなくし、どの子どもにとっても良い保育を実現するためには、お金儲け主義のいい加減な経営を監視するために、規制を実質化しながら、保育士の労働条件を改善していく必要があります。保育士の労働状況改善は、やろうと思えば確実に可能なはずです。

【感想】前著『ルポ保育崩壊』に続いて、酷い保育の現場が紹介されている。やはり諸悪の根源は前著と同じく「規制緩和」ということになっているわけだが、前著よりも保育者人件費比率などの指標データが豊富で、問題の構造がより分かりやすく記述されているように思った。ともかく、子どもや保育者を食い物にして私腹を肥やすような経営者に対して、実効力のある規制が必要なのは、間違いない。待機児童解消も大事ではあるが、まずは保育士の労働環境改善の方の優先順位が高いのは、誰の目にも明らかだと思うのだが。

それとは別に思ったのが、やはり「子育ての共同化・公共化」が崩壊して、ますます「保育の個人サービス化」の傾向が加速しているということだ。
個人的には、子育ては地域全体・国全体の共同作業として行なうのが理想だと思っている。が、現実は家族を孤立化させながらの子育てサービス産業化が一段と進行している。子育ての責任を家族にだけ押しつけるような制度や言説が、ますますその傾向に拍車をかけていると思う。事態を根本的に変えるために本当に必要なものは、おそらく「家族の在り方」というものに対する腰の据わった哲学的・歴史的な洞察なのだろう。

小林美希『ルポ保育格差』岩波新書、2018年