【要約と感想】近藤幹生『保育とは何か』

【要約】保育とは、(1)子どもの成長発達を保障することであり、(2)親が働くことを支援することであり、(3)地域社会の子育てを応援すること等です。ですから、保育の在り方を考えるには、「子ども/親/地域」という多面的な観点を忘れないようにしつつ、保育者の専門性について考えていく必要があります。少子化が懸念されるなか、2015年から「子ども・子育て支援新制度」がスタートしますが、どれだけ時代や制度が変わろうと、保育の本質を見失ってはいけません。
しかし、待機児童問題が極めて大きな問題となる中、安易な規制緩和・民営化によって保育の世界に競争原理が持ち込まれています。保育者の想いを無視した安易な改革によって保育の質が低下することを、心配します。

【感想】2015年「子ども・子育て支援新制度」が実施される前に出た本で、規制緩和・競争原理の導入に対する危惧が示されている。新制度を施行した後に実際に何が起こったかは、続編的な位置づけの近藤幹生『保育の自由』(2018年)を参照するといいかもしれない。
ともかく本書は規制緩和・競争原理に原則反対の立場で書かれているように読めるわけだが、実際に何が起こったかはしっかり事実に基づいて検証していく必要がある。保育(あるいは教育)を「子育ての共同化・公共化」と見るか「サービスの提供」と見るか、いままさに大きな変わり目に立ち会っているような気がするのだ。それを同時代の目から検証・記述できるのは、同時代に生きている我々しかいない。

まあしかし、保育に関して、待機児童問題とか死亡事故とか閉園トラブルとかブラック企業とか財政難とか、とかく暗澹たるニュースが世間を賑わすわけではあるが、本書には誠実に理想の保育を実践する保育士や園の姿もしっかり描かれて、ほっとする。日常の業務に疲れ果てて展望を見失ったときに手に取るべき本なのかもしれない。(おそらく、本をゆっくり読む余裕さえないという人にこそ必要なのだろうが…)

近藤幹生『保育とは何か』岩波新書、2014年