【紹介と感想】田村知子編著『実践・カリキュラムマネジメント』

【紹介】2011年に出版されたということで、現行学習指導要領(2017年改定)に「カリキュラム・マネジメント」という言葉が登場する前の本です。一般の教育現場がカリキュラムマネジメントという言葉すら知らない時期に、先見的な理論を打ち立て、先進的な実践を行なった記録です。
具体的な実践記録としては、読解力の向上、外国語活動、道徳教育、キャリア教育、体力向上、総合的な学習の時間の構築、小中一貫の取り組み、特別支援教育、不登校対策などが並んでいます。そしてそれらの取り組み全てが「学校運営」の在り方そのものと密接に関わっていることが、本書(あるいはカリキュラムマネジメントそのもの)の特徴です。校務分掌や校内研修、あるいは情報集約の在り方をマネジメントすることによって、学校が扱う全ての領域で顕著な改善を進めることができます。全てに共通して重要なのは、校長の信念とリーダーシップ、全ての教員の協働性に基づいた「教科等の連関性」です。

【感想】実践報告者たちが、口を揃えて「効果が上がった」と手応えを実感しているところが、掛け値なしに、まず凄い。熟練教師のカンとコツに頼った従来の学校運営では、人員の入れ替えがあるとたちまちにして機能不全に陥る。が、マネジメントの知識と技術を用いて組織を作り上げると、知恵が引き継がれ、さらによいものへと改善されていく。逆に言えば、これまでよく「マネジメント」の概念なしに学校運営なんかやってたなあ、という感じでもある。(まあ、マネジメントの概念が欠落しているのは、学校だけでなく、日本の民間企業もなのだが。)

本書は学習指導要領に「カリキュラム・マネジメント」という言葉が登場する前に出版されているので、学習指導要領の記述そのものと厳密に合致するわけではない。表記の揺れなども含めて、詰め切れていないところもある。しかしそれが幸いしているのだろう。上意下達でやらされるのではなく主体的に取り組みを始め、新しい概念とツールを具体的な実践に活用し、確かな手応えを実感する報告は、若々しい感動に満ちている。草創期に特有の熱量を帯びた感動なのかもしれない。同じ熱量は、最近では「STEM教育学会」にも感じたものだ。
仮に理論的・実践的には多少古くなったとしても、元気を受け取って意欲を沸き立たせるには、実はとてもいい本なのかもしれない。

田村知子編著『実践・カリキュラムマネジメント』ぎょうせい、2011年