【要約と感想】泉谷閑示『反教育論―猿の思考から超猿の思考へ』

【要約】理性至上主義(サルの思考)に陥って身体感覚に根付いた野性(オオカミの思考)を失うと、人類は滅ぶでしょう。マニュアルに即して基礎を練習することにたいした意味はなく、「どうして生きるのか」「何のために生きるのか」という志を内側から引き出すことが肝要です。

【感想】個人的には、こういうふうに近代合理主義(代表=デカルト)をこき下ろしてロマン主義(代表=パスカル)を前面に打ち出す本は、好みではある。「心の中の狼が叫ぶよ―鉄を喰え飢えた狼よ、死んでも豚には食いつくな」という尾崎豊の歌が脳内で再生される。
とはいえ、近代合理主義の凄さもしみじみと分かるんだよなあ。「分析・総合」「帰納・演繹」のプロセスを習得すれば、センスがなくても世界に立ち向かうことができる。著者が言う「盗む」は確かに素晴らしいことかもしれないけれど、そういうセンスがない凡人にとって、段取りを踏めば正解に辿り着ける近代合理主義ってのは本当にありがたいツールなんだよね。そう簡単に批判するわけにもいかない。
まあ、著者も近代合理主義が必要ないと主張しているわけではなく、理性に対して盲目的な至上主義に陥ることを戒めているだけだ。サルの思考とオオカミの思考の両者をどのように止揚するかが、現実的で具体的な課題となるのではある。理性至上主義に対してブレーキの役割を果たすものとして読むべき本だろう。

泉谷閑示『反教育論―猿の思考から超猿の思考へ』講談社現代新書、2013年