【要約と感想】樺山紘一『地中海―人と町の肖像』

【要約】人文社会科学の営為を中心として、地中海を貫く精神を掴もうとするエッセイ集。歴史(ヘロドトス、イブン・ハルドゥーン)、科学(アルキメデス、プトレマイオス)、聖者(聖アントニウス、聖ヒエロニムス)、真理(イブン・ルシュド、マイモニデス)、予言(ヨアキム、ノストラダムス)、景観(カナレット、ピナレージ)という素材を通じて、地中海をめぐる歴史と地理を縦横無尽に語ります。

【感想】ブローデル的な話を予想していたら、エッセイ集だった。幅広い教養が全方位に展開されて、読み応えがあった。
知識としては、イブン・ハルドゥーンのエピソード「地理学としての歴史学」を興味深く読んだ。「文化と生活をあらわす諸要素は、どれも地理を構成する関数である」(37頁)という文章は、とても味わい深い。なるほど「関数」って言えばいいのか。近代以前の紀行文と志賀重昂や内村鑑三の地理学を隔てるのは、この「関数」という視点なのだろう。しみじみ、いい言葉だ。真似しよう。

樺山紘一『地中海―人と町の肖像』岩波新書、2006年