【要約と感想】高野義郎『古代ギリシアの旅―創造の源をたずねて―』

【要約】小アジア→バルカン半島→ペロポネソス半島→イタリア南部と主要なギリシアのポリスを巡りながら、碁盤目型都市構造や聖数としての10、あるいは時計回りの理由といった普遍的な文化史に思いを巡らせます。通奏低音的なモチーフとして、ギリシア神話では何かと悪者にされる女神ヘラーの復権を試みる一方で、哲学的にはソフィスト等の活動を無視して自然科学的精神の発達に着目して記述しています。

【感想】本書の基本構想は、ヘラーやアテナ、アルテミス等のギリシア神話の女神たちがもともとは土着の地母神であったという直感に基づいている。その直感を保証する文字史料はまったくないので、エビデンスは考古学的な知見に求めるしかない。筆者は、神殿の柱の数や部屋の構成比率にピュータゴラース学派の聖数10の起源を見出したり、女神たちの神殿がもともとは低湿地に位置していたことなどを根拠に、かつての地母神たちに思いを馳せる。客観的な根拠は確かに薄いのだろうけれども、その直感に何らかの可能性を認めることに対して吝かではない。ギリシア文化に魅せられて熱心に現地に通った人だけが感じとることができる何かが、客観的には素直に認めがたい仮説の説得力を増していたのではないかと思う。静かな語り口の奥底に熱い情熱を感じる一冊だった。

高野義郎『古代ギリシアの旅―創造の源をたずねて―』岩波新書、2002年