【紹介と感想】髙木展郎監修・矢ノ浦勝之著『「カリキュラム・マネジメント」の進め方』

【紹介】実践例が豊富な小学校カリキュラム・マネジメント指南本です。5つのステップに沿って、ワークシートを埋めていけば、どの学校でもカリキュラム・マネジメントが進められるように工夫されています。
5つのステップは以下の通りです。
(1)グランドデザインづくり
(2)教科等を超えて育む資質・能力の整理
(3)各学年のグランドデザインと年間指導計画の作成
(4)教科ごとの単元計画の作成
(5)授業実体からグランドデザインを見直す
「学校づくり」と「授業づくり」が一体となって構想されており、カリキュラム・マネジメントの前提となる学校経営の方向性についても大きな示唆が得られます。

【感想】本書で繰り返し強調されるのは、「学校目標」の抜本的な見直しの必要性だ。カリキュラム・マネジメントを成功させるには、大前提として旧来型の学校目標をやめて、「育成したい資質・能力」を柱にした学校目標への転換が求められる。が、数十年(あるいは百年以上)も続いてきた学校目標を変更することは、とても勇気がいることだ。ここに手をつけられるかどうかで、学習指導要領の理念が貫徹するかしないかが決まる。先に読んだ『鎌倉発「深い学び」のカリキュラム・デザイン』では、伝統的な学校目標との衝突を妥協的に回避する案を提出していたが、本書には妥協がない。現実に全国の学校目標がコンピンテンシーベースに変化するか(あるいはしないか)は、今後の日本の教育実践の行く末を見極める上で興味深いところだ。

もうひとつ印象に残ったのは、「資質・能力」を中心に学校づくりを進めることで、特に意識するまでもなく自ずと「教科等横断的」なカリキュラム編成へと落とし込まれていることだ。様々な教育雑誌を見ていると、各学校が苦労しながらテクニカルに教科等横断的なカリキュラムを作ろうとしている姿を見ることができるけれども、実はそんな苦労をするまでもなく、カリキュラム編成の基礎・基本を踏まえれば自然と教科等横断的な編成に組み上がり、「主体的・対話的で深い学び」へと向かって行くものだ。またそれは「単元」というまとまりを重視した授業づくりへと自然と結びつく。

総合的に見て、小学校の管理職の方々にとっては実践的にかなり役に立つ本であるように思った。とはいえ、やはり個人的には新学習指導要領の目指す方向と教育基本法との捻れに対してますます疑念が深まるのであった。まあそれは私個人の研究課題であって、本書の価値が下がるというものではない。

髙木展郎監修・矢ノ浦勝之著『学習指導要領2020「カリキュラム・マネジメント」の進め方: 全国先進小学校実践レポート』小学館教育技術MOOK、2018年

■参考記事:「カリキュラム・マネジメントとは―3つの指針と学校運営の要点―