【紹介と感想】『プログラミング教育が変える子供の未来』

【紹介】保護者向けに書かれた本ですが、学校の教師にとっても役に立つ本です。
本書は主に4つの観点からプログラミング教育を説明しています。
(1)プログラミング教育導入の背景
(2)世界的な趨勢
(3)教材や民間プログラム教室の案内
(4)学習指導要領を踏まえた学校教育での展開
それぞれのテーマを現場経験が豊富な方が執筆しているほか、多彩な顔ぶれの執筆者によるコラムも充実していて、プログラミング教育を多面的に理解することができます。
単にざっくりプログラミング教育について知りたい人にも役に立ちますが、少しつっこんで背景を確認したい人にはさらに意義がある本だと思います。

【感想】プログラミングの知識と技術が「新しいリテラシー」であることがよく分かる内容だった。このリテラシーが今後の社会を生き抜く上で必須であることがよく分かる。

類書と違っているのは、民間スクールの動向に加えて、しっかり文部科学省の姿勢が記述されていることだ。学習指導要領の内容を踏まえ、さらに具体的な教科指導案(社会)が示されているところなどは、他の初心者向解説本にはあまり見られない特徴だと思う。また、プログラミング教育指導者養成の話も、他の本には見られない特徴かもしれない。

そして類書と同じなのは、「プログラミング学ぶ」のではなく「プログラミング学ぶ」という姿勢だ。単なる職業教育ではなく、普遍的な力を伸ばす教育であることは、あらゆる入門書で共通して強調されている。ちなみに本書は、プログラミング教育で育つ普遍的な能力として、特に4点を挙げている。
(1)自己解決力
(2)想像力
(3)自分を信じる力
(4)表現力
この4点は、どれもこれまでの教育ではなかなか育ってきていないと指摘されているものばかりだ。プログラミング教育はいわゆる「活用力」を伸ばす授業を構想する上で、かなり便利な「手段」だと思う。

ただしかし、気になるのは、本書でしっかり指摘されている「格差」の問題だ。他の類書では、この「格差」についてもあまり指摘されることがない。本書はしっかり「格差」の問題を視野に入れていて、ほっとする。
とはいえ、「世界のトップエリート」と「地域で活躍する人材」を振り分ける話は、そう簡単に決着がつく話ではない。その国家戦略が適切かどうかについては、コンピュータ教育の文脈を越えて、教育学固有の問題として我々研究者がしっかり捉えていく必要がある。

松村太郎、山脇智志、小野哲生、大森康正著『プログラミング教育が変える子どもの未来―AIの時代を生きるために親が知っておきたい4つのこと』翔泳社、2018年