教育概論Ⅱ(栄養)-1

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授業の目的と評価

・この授業の最終的な目的は、「教育課程」とは何か?を理解することです。
・前半は「ナショナリズム」について考え、国家が教育に果たす役割について理解します。
・評価は、期末テストによって行います。出席が足りていない者には受験を認めません。

教科書

中学校学習指導要領(平成29年告示)』および『中学校学習指導要領解説 総則編』を手に入れておいてください。
文部科学省のWEBサイトから無料で手に入れることもできますし、本として購入することもできます。

教育概論Ⅰのおさらいと反省

・教育概論Ⅰでは、近代教育が形成される歴史と理論について学びました。具体的には、(1)リテラシーの教育、(2)人格形成の教育、(3)義務教育、(4)産業が必要とする教育について学びました。
・しかし現在、教育には様々な矛盾が噴出しています。その背景にあるのは、「近代」から「現代」への変化に伴って、教育に期待される働きや機能が変化したからだと思われます。ひょっとしたら、近代教育は賞味期限切れなのかもしれません。
・近代と現代の境界線については様々な議論がありますが、ある特定の年代を想定するわけではありません。近代という時代の特徴(市民社会・資本主義・民主主義等)を踏まえた上で、その有効性が崩れてきている新たな時代を「現代」と捉えることにします。

(1)メディアと教育

・いま、リテラシーの在りようが根本的に変化しています。その結果、教育も大きく変わらなければいけません。
・ポストマン『子どもはもういない』1985年。子供のような大人、大人のような子供。秘密のないメディア。大人と子供の境界性の崩壊。
・インターネットの急速な展開。コミュニケーション様式の根底からの変貌。「1×1」→「1×n」→「n×n」。タテマエとホンネの境界線の崩壊。
・そもそも教育にとって学校という形は絶対に必要なものなのでしょうか?

(2)自己実現のワナ

・いま、近代的な「人格の完成」の有り様が根本的に変化しています。
・「自由」は本当にすべての人々を幸せにするのでしょうか?
・すべてを自分で決めなければいけないことのつらさ。「夢を持つ」ことの難しさ。「やりたいこと」や「なりたい自分」が見つからないとき。
・たとえば「自由に作文を書け」と言われた時の子供たちの困惑。「内面」の強制的な捏造。むりやりに「やりたいこと」や「なりたい自分」を捏造しなければならない圧力。
・一方で、肥大化する自己愛と自己顕示欲。リア充アピール。もう一方で、承認の欠如。自分探しの旅と自己啓発セミナー。ひきこもり。
・個人主義の限界。そもそも「何が幸せ」なのか、わかっているのでしょうか?
・かといって「絆」とか「愛は地球を救う」などという言葉に信頼を置けるでしょうか?

(3)権利としての教育?

・義務教育の有り様が根本的に変化しています。
・貧困の再生産。権利を保障されない子供たち。
・単なる再配分機関としての学校。偏差値至上主義。権利を権利と思えない子供たち。学校に期待を寄せるどころか、学校によって希望を奪われる。
・もう一方で、学校化する社会。マンガ家養成校、アイドル養成校等。あらゆる専門知識が学校知に分解・再編成され、パッケージ化され、商品化・市場化される。学校に行けば(金を払えば)必要な知識が手に入る。
・教育は市場化されたサービス(消費財)の一種に過ぎないのでしょうか?→「教育と市場」に関わる問題は、本講義後半で検討します。

(4)労働と教育

・産業構造が根本的に変化しています。
・分業体制によって、「働く」ということの意味が拡散。生活することと働くことの乖離=疎外。生活することが「消費すること=お金を使うこと」と同じ意味になってしまうと、働くことは生きることではなく単に「お金を稼ぐこと」になってしまう。
・生活の全体性(生きる意味)を取り戻すことはできるのでしょうか?
・AI(人工知能)への恐怖と期待。仕事を奪われるのか、それとも人間が働くことの意味を取り戻すのか?
・人間だからこそやれることとは、何でしょうか?

(5)国家と教育

・国家が教育に果たす役割が大きく変化しています。
・内的事項と外的事項の区別は実際に成立しているでしょうか?
・個人の人格形成と国家が求める人材養成との関係はどうなっていますか?
・国家の教育への関与の実際→学習指導要領、教科書検定。

ナショナリズム

ナショナリズム:国家の構成員が「私は○○人である」という自覚を持っている状態。
・どうして私たちは、日本が勝つと(たとえばスポーツやノーベル賞など)嬉しくなるのでしょうか。会ったこともなければ話したこともない赤の他人が受賞したとしても、なぜ誇りに思えるのでしょうか。→「同じ日本人だから」。
・しかし、同じ血液型や同じ身長や同じ足のサイズの人が受賞したとしても、特に嬉しいとは思いません。「同じ日本人」と「同じ血液型」との違いは何でしょうか?

復習

・近代になって成立した「教育」の形を総合的に捉えよう。
・近代教育が崩れかけて様々な問題が生じていることを認識し、これからの教育の姿を構想してみよう。

予習

・「国家」とは何か、「国家が教育に果たすべき役割」とは何かについて、考えておこう。