【紹介と感想】石戸奈々子監修『プログラミング教育がよくわかる本』

【紹介】2020年から小学校でプログラミング教育が始まります。先生も保護者も恐れおののいているかもしれませんが、大丈夫です。問題ありません。難しいことをゼロから勉強する必要はありません。まずは、できることからやっていけば大丈夫です。うまくいきます。
本書は、タイトル通り「とてもよくわかる本」です。プログラミング教育をどうやって始めるか、これまでの教科教育との関係はどうなるのか、どうして必要なのか、とてもよく分かります。プログラミング教育について右も左も分からずにオロオロしている超初心者が最初に手に取るべき本として、間違いなくお薦めできます。

【感想】「プログラミング教育が始まる」と聞いて、世間の人々が往々に勘違いするのは、国語や算数などと並んでプログラムという教科が作られるのではないかということだ。が、実際のところは、プログラムの時間がわざわざ週1時間とか2時間などと設定されるわけではなく、各教科の中で適宜取り入れていくとされている。算数の図形の理解とか、理科の力学に関する実験とか、音楽での作曲とか、各教科の中で、「手段」としてプログラミングを導入することが求められているわけだ。

そこで期待されているのは、実際に「プログラムの知識」を習得することではない。実際に期待されているのは、試行錯誤の積み重ねを通して目標に向かって粘り強く取り組み続ける力の育成であり、チームで対話を重ねながら協力して一つの目標に向かっていくコミュニケーション力の育成であったり、個性的な表現力の育成であったりする。
そのようないわゆる「ソフトスキル」を伸ばしつつ、また同時に各教科の知識が役に立つことを実感することも期待されている。「三角形の内角の和が180度」という知識は、実生活の中ではさほど役に立たないかもしれない。しかし画面の中のキャラクターをイメージどおりに動かしたいとなったときには、この知識は極めて重要な役割を果たしたりする。力学的な知識もまた同様。学習指導要領が求めてきた「知識の活用」を行なおうとする時、プログラミング教育の存在は現場に多大な恩恵を与えるはずだ。
プログラミング学ぶのではなく、プログラミング学ぶ。これを分かっていれば、きっとうまくいく。

プログラミング教育は、決して従来の教育から独立した異物ではない。これまでの学校教育で育ててきているであろう論理的思考力、判断力、表現力、コミュニケーション力等々が、プログラミング教育の理念とがっちり噛み合うはずだ。というか、噛み合うようにやらないと、意味がない。単に知識だけ与えるプログラミング教育は、害悪しかない。

この本は、一見わかりやすく簡単に書いてあるように見えながら、プログラミング教育を越えて将来の教育全体に希望が見えてくる、なかなか奥が深い本だと思った。

石戸奈々子監修『図解 プログラミング教育がよくわかる本』講談社、2017年