【要約と感想】高橋健太郎『振り向けばアリストテレス』

【要約】アリストテレスが現代日本に甦ったら、一人の眼鏡っ娘が幸福になった!

【感想】とても良かった。感動した。なによりも良かったのは、眼鏡っ娘が幸福になったことだ。本当に良かった。眼鏡っ娘が獲得したのが正真正銘の紛れもない「本物の幸福」であることは、私の主観などではなく、本書が客観的に証明してくれるのだ。こんな構成の本、他にない。猛烈に感動した。

そして本書が「感動的」な理由も本書自体が客観的に解説しているという、メタ・フィクション的に恐るべき離れ業が見られるのであった。ネタバレになるので詳細は書けないのだが、「認知と逆転が同時に起こるのが最高の悲劇」という『詩学』の教えを、本書自体が見事に再現しているのだ。すげえ。最後の眼鏡っ娘の「認知」を示すセリフと、「認知」そのものが「逆転」を引き起すという「筋」の見事さと、それに対するアリストテレスの返答および態度に見られる「性格の一貫性」には、本当に泣かされてしまった。素晴らしかった。

アリストテレスの性格の一貫性についても、読み始めたときは「アリストテレスの性格描写がえらくステレオタイプだなあ」などと思ったのが、それすらも最終的には整合的に説明できてしまうし。読み終わってから書籍内書籍の表紙にかかった帯を見て、ニヤリとできるし。いやあ、まいったなあ。

【眼鏡学への示唆】
そして本書は、私の「眼鏡学」に対するインスピレーションにも多大なインパクトを与えてくれた。やはり眼鏡っ娘を理解するためには、アリストテレスの理論が強力な示唆を与えてくれることが確認できた。特にアリストテレス『形而上学』に見られる「可能態から現実態へ」「存在の四原因」「形相と質量」といった諸概念は、眼鏡っ娘を理解するうえで決定的に重要な役割を果たす。プラトンの「イデア論」では行き詰まるしかなかった眼鏡論が、アリストテレスの論理によって駆動する。

高橋健太郎『振り向けばアリストテレス』柏書房、2018年