教育概論Ⅰ(保育)-3

短大保育科 4/26・4/28

前回のおさらい

・大人と子どもの境界線は、今と昔ではかなり異なっていました。
・生理的早産:人間の赤ちゃんは「能なし」で生まれてきますが、だからこそ人間は他の動物と違って様々な可能性に満ちています。
・子育ての仕方は、今と昔で家族の形が違っているため、かなり異なっていました。

「形成」と「教育」の違い

・要するに、私たちが現在当たり前だと思っている「教育」は、昔は行われていませんでした。
・「学校」がなかったころも人々は人間形成を行っていました。「教育」と異なる形の人間形成のことを専門用語で「形成」と呼びます。

形成と教育の違い
カテゴリー形成(前近代)教育(近代)
【何を習得するか】カンとコツ知識と教養
【どこに修めるか】身体
【どうやって伝えるか】行動文字
【規範意識】恥じ・しつけ公共性・道徳
【根拠】経験と仕来り科学と合理性
【指導する人】村落共同体資格を持った教師
【見える光景】背中
【労働との関係】労働と一体労働と分離
【祭祀との関係】祭祀と連続祭祀と分離
【遊びとの関係】遊びと連続遊びを排除
【カリキュラム】実践的・偶然的意図的・計画的
【行政】自治中央集権
【大人の条件】一人前人格の完成
【人間像】身分・地域の特殊性普遍的人間

・「親方-弟子」の疑似親子関係:徒弟制、丁稚奉公、ギルド等。
*昔の子どもは活き活きしていた? →子どもが変わったわけではなく、子どもを取り巻く環境のほうが変化したと考えれば、理解できそうです。
*昔のお父さんは尊敬されていた? →お父さんが変わったわけでも、子どもが変わったわけでもなく、労働と教育のあり方が変わったことを考慮すれば、理解できそうです。
*どうして「形成」ではなく「教育」が必要となったのか? →親と一緒の仕事をするなら「形成」で問題なさそうですが、別の職業に就く場合には「形成」はむしろ意味がなくなりそうです。

イニシエーション

・イニシエーションとは:日本語では「成人式」や「通過儀礼」とも呼ばれています。一人前の共同体(ムラ)のメンバーになるために、全ての若者が突破しなければならない試練のことです。日本だけではなく、世界全体に共通して見られます。
・イニシエーションの必要性:肉体的に一人前の条件を揃えつつあるとき、精神的にも一人前になる必要があります。
・イニシエーションの内容:「死」と「再生」を象徴するものと言えます。一人前の共同体(ムラ)メンバーになるために、家族と分離(親離れ、子離れ)し、ムラ全体の子供として再び生まれなおす必要があるということです。

若者組……学校がない世界での人間形成

・一人前になるために、年齢別集団へ加入して、様々な知識や技術を身につけます。(女性の場合は「娘宿」など)
・「家族」でも「学校」ではない場所で、親や先生ではない人から、知識が伝達されます。
・若者組の役割:集団労働力の提供、祭礼や村芝居の執行、消防・警察、性や結婚の管理など。
・近代の学校と決定的に異なるのは、「死」と「生=性」の重要性かもしれません。

復習

・「形成」という概念について、現在の教育の在り方と比較しながら理解しておこう。
・「イニシエーション」の理念と実際の在り方について、現在の教育の在り方と比較しながら理解しておこう。

予習

・江戸時代の日本の教育について調べておこう。
・ヨーロッパ近代の歴史をおさらいしておこう。

参考文献

ファン・ヘネップ『通過儀礼』
文化人類学の観点からイニシエーション(通過儀礼)を捉え、人生の節目で危機を乗り越えるための儀礼と理解し、越境の過程を「分離→過渡→統合」という図式で理解する。古典的名著。

佐野賢治『ヒトから人へ』
「大人になる」ために昔の人々が行っていた伝統的な習俗を、「一人前」という視点から描き出すエッセイ集。高度経済成長後に失われた伝統的な人間形成の在り方について考えさせられる。