【要約と感想】若林明雄『パーソナリティとは何か その概念と理論』

【要約】心理学には、人間に共通するものを研究する分野と、個人差を研究する分野があって、パーソナリティ心理学の目的は個人差を研究することです。しかし現実には、研究者の間ですらパーソナリティ概念の定義が共有されていません。あまつさえ、パーソナリティを実体的に理解するような、シロウト同然の研究者すらいます。パーソナリティ心理学を科学的実証的な学問にするためには、パーソナリティを構成概念と理解し、理論の効果と射程距離を確認しながら、個人差の記述や説明として適切かどうかを明らかにするため、不断に研究手法を反省する必要があります。

【確認したかったことで、しっかり書いてあったこと】オールポートはパーソナリティ心理学の元祖のような呼ばれ方をすることがあるが、実際にはその後のパーソナリティ研究に実質的な影響をほとんど与えていない。オールポートの姿勢は、むしろ個人の独自性を尊重する人間学的なものであって、因子分析のように人間を要素に還元していく研究手法には批判的だった。

【感想】パーソナリティ心理学という学問が固有の研究対象と方法を確立するために苦闘を重ねる姿が描かれている。私が専攻する教育学も長らく固有の研究対象と方法を獲得するために試行錯誤を繰り返してきたわけだが、今現在は「そんなものはない」と開き直っている状況に近いので、パーソナリティ心理学が真摯に課題に対峙する姿には頭が下がる思いだ。

若林明雄『パーソナリティとは何か その概念と理論』培風館、2009年