【要約と感想】小川正人『教育改革のゆくえ―国から地方へ』

【要約】政治主導の教育改革によって、これまであり得なかったような改革が次々と実行されています。地方分権化は進んでいますが、小泉改革によって義務教育費国庫負担金を三分の一に切り下げたのは、なんの根拠もない、愚かな行為でした。政治主導というなら、国際的にも最低レベルの公教育費を反省し、誰もが安心して子どもを預けることができるような公教育を整備するよう、政治の責任を果たすべきです。

【感想】現在進行形で、政治主導の教育改革が盛んな御時世になっている。その発端が中曽根康弘の臨時教育審議会にあり、本格化したのが小泉政権以降であることについては、衆目が一致している。本書は、自民党一党体制において族議員が教育政策に影響力を持っていた時代から、政治主導の教育改革に切り替わる流れを、文部科学省(旧文部省)の官僚の証言を交えて、分かりやすく描いている。

その変化は、具体的には地方分権という形で進行している。悪化した国の財源を改善するために、地方に権限を移譲しつつ、国家財政をスリム化するという方向だ。地方分権化によって市町村教育委員会や各学校の裁量権が増えること自体は、子どものためには良いことかもしれない。しかし、実際に発生したのは、義務教育費国庫負担金の国負担割合の切り下げだったり、就学援助補助金の打ち切りだったりした。その結果、教員給与が切り下げられ、非正規雇用(非常勤講師や臨時任用)が増加し、自治体間の格差が拡大することとなった。教育を悪い方向に曲げてしまったとしか思えない。

また、教育委員会の改廃論を伴いながら、地方教育行財政制度の再編成も進行中だ。本書発行時点ではまだ地教行法の弾力化に過ぎなかったったが、いまや教育委員長が廃止されて教育長に一本化されるところまで来ている。ここで終わるとも思えない。こうして教育が政治の論理に巻き込まれるようになった結果、教育の自律性や専門性が軽視され、私的サービスの一部門とみなされる傾向が助長されるようになる。相対的に政治から独立して働いていた教育の論理が、政治の動きと密接に連動するようになる。そのこと自体は、ひょっとしたら教育を良くするチャンスなのかもしれないが、悪くすると教育がめちゃめちゃになる可能性もある。かなり分が悪い岐路に立っている感じがする。

無責任な印象論で教育を引っかき回すだけの政治主導に陥らず、教育の専門性を着実に活かすための制度にするにはどうしたらいいか、いまこそ広範な知恵が必要な時だ。本書は、民主党政権時代に書かれたために個々の具体例は古くなっているが、教育行財政制度に関する様々な知恵と選択肢を見せてくれる点においては、まだそんなに古びていないと思う。(ただ、教育委員会と学校運営協議会制度の改変に関しては知識をアップデートしておいた方がいいかもしれない。)

小川正人『教育改革のゆくえ―国から地方へ』ちくま新書、2010年