教育の基礎理論-11

前回のおさらい

・産業革命と社会の変化。資本主義における立場によって、学校の役割が異なって見える。
・階層分化。資本家と労働者の分裂。

産業革命と階層分化(つづき)

モニトリアル・システム

ベル・ランカスター法:助教法。大勢の生徒に対する一斉授業方法。教師はまず成績優秀な学生に教え、優秀な学生(モニター・助教)が一般学生に教える。
・安価に、大量に、早く、労働者を作ることができる。
・「人格の完成」を目指すというよりも、工場労働で必要となる必要最低限のリテラシーとモラルを身につけることを目指す。
・ベル・ランカスター方式の学校で子供たちが身につける能力とは、実際はどういうものか?→隠れたカリキュラム

分業と個性、学歴主義

・分業によって生産性が格段に上がる。アダム・スミス。
・分業が促進されるほど、個性が意味を持つ。社会に人材を送り出すとき、それぞれの特性に応じた持ち場に就けることができれば、社会全体の効率が上がる。適材適所。
・この場合の「個性」とは? 「人格の完成」に関わる「個性」なのか?
・人間を測るモノサシ。横の個性と、縦の個性。
メリトクラシー:能力主義。身分や血筋の高い者が社会を統治する体制を否定する。出自に関係なく個人の持っている能力によって地位が決まり、能力の高い個人が社会を統治する。
学歴主義:学校の勉強に高い適応能力を示した個人が、きっと社会一般でも高い能力を発揮するだろうと期待する態度。しかし、学校の勉強に高い適応能力を示す個人が、一般社会で高い適応能力を示すとは限らないということは、広く気がつかれている。それにも関わらず、どうして学歴主義が説得力を持つのか?→文化的再生産論

隠れたカリキュラム

・カリキュラム:教育目的を達成するために、計画的に配列された、教育内容。
・正式のカリキュラム:学校や教師が教えていると公式に表明されている教育内容。学生や保護者や世間にとって、学生が学校で身につけることを期待している学習内容。
・正式のカリキュラムは、完璧に身についているわけではない。が、まったく人生で困らないのは何故か?
隠れたカリキュラム:教師は教えていると思っていないし、保護者や世間も学校でそれを教えているとは思っていないにもかかわらず、いつのまにか学生たちが身につけている暗黙の内容。
・勉強はつまらないし人生で役に立たない。→役に立たないものでもガマンして努力しなければならない。→つまらないし役に立たないものをガマンして身につける習慣。
・知識や考え方、行動様式が、意図されないまま、いつのまにか身についている。このような習慣形成の方が、正式なカリキュラムで学ぶ知識よりも、優秀な労働者になる上で決定的に重要。
・遅刻しない、早退しない、無断欠席しない、授業中は席を立たない、先生の命令には無条件に従う、無意味に思えることでもとりあえずやる、相互監視する、競争する、出る杭を打つ、密告する。
・学校で身につける意識と行動様式=労働者として必要な意識と行動様式。
・他に性別役割分業に関する意識等。

文化的再生産

・学歴の高い親の子どもの学歴も高くなりやすいのはなぜか?
・遺伝=生物的再生産か、環境=文化的再生産か?
文化資本:支配階級の習慣や考え方を教育システムが評価することにより、もともとそういう習慣を身につけていた層が高い学歴を得て、高い階級へと再生産される。
・労働者にとってはつまらないし役に立たないように見えるものも、文化資本を独占する人々にとっては極めて優れた意味があるように見える。学校文化に親和的な人間ほど高い学歴になる傾向があるが、それは必ずしも人間としての能力が高いことを意味しない。

新教育

・20世紀初頭から世界的に広まった教育運動。主知主義的な教育を批判し、子供の自発性や能動性、創造性を重視する。日本では大正期(1912年~1926年)に流行。大正新教育運動。

人間の範囲の拡大

・「白人+男性+キリスト教徒+中産階級」のみを人間とした市民社会から、様々な人々の努力により、徐々に人間(人格を持ち、自由と権利を行使できる者)の範囲が拡大していく。労働者、女性、異教徒(無神論者)、子供、障害者。→動物?
・権利の拡大過程。男子普通選挙権(労働者への公民権拡大)。
・女性参政権。フェミニズム(女権拡大論)。
・植民地の独立。公民権運動。
・児童の権利に関する宣言(1959年)。児童の権利条約(1989年)。児童が保護の対象から、権利の主体へ。
・障害者権利条約(2006年)→障害者基本法、障害者差別解消法。

復習

・産業革命に伴って生じた教育の変化について、「メリトクラシー」などの言葉と一緒に押さえておこう。
・「隠れたカリキュラム」という言葉について、様々な角度からアプローチしてみよう。(性別役割分業など)

予習

・新教育について、デューイ、エレン・ケイ、モンテッソーリの仕事について調べよう。