【要約と感想】慶應義塾大学文学部『恋愛を考える』

【要約】文学部の総力を結集して「恋愛」について考えてみました。

【感想】哲学、社会学、歴史学、文学、美術史、心理学など、様々な学問的立場から多様に「恋愛」に迫る論考は、ひとつひとつ興味深く読める。若い人に「学問的アプローチとはいかなるものか」を具体的に示すには格好の本かもしれない。
とはいえ、個人的に期待していたのは、愛にまつわる代替不可能性とか唯一性といった概念に対する原理的な考察だったので、その点に関しては肩すかしだった。まあ、「愛」に対する考察ではなく「恋愛」に対する考察なので、最初から無い物ねだりだったような感じではある。

【眼鏡学に関連して】
大串尚代「永遠をめぐる物語~乙女チック・マンガにおける恋と未来」での論考は、眼鏡学にも参考になる。本論は「少女マンガとアメリカ文学との距離は以外に近い」(94頁)と指摘している。少女マンガで「眼鏡を外すと美人」というクソみたいな物語を見ることがあるが、このような物語はアメリカ的精神と近い可能性があると思っている。というのは、もともと日本やヨーロッパには「眼鏡を外して自己実現」という考えは見当たらないのに対し、アメリカではスタンダードであるように見えるからだ。少女マンガに対するアメリカ文学の影響を緻密に調べていくと、「眼鏡を外して自己実現」というゴミのようなエピソードの由来が見えてくるかもしれない。

慶應義塾大学文学部『恋愛を考える―文学部は考える〈1〉』慶應義塾大学出版会、2011年