主体的・対話的で深い学びとは―アクティブラーニングを超えて―

簡単にまとめれば

 テストのための勉強はくだらないので、ホンモノの力をつけてください、ということ。

 そのために押さえるべきポイントは、
(1)従来の「アクティブ・ラーニング」には、勘違いが多かった。
(2)これからは「深い学び」を前面に打ち出す。
の2点です。

アクティブだけではダメ

 これまで「アクティブ・ラーニング」と呼ばれていたものが、今回の学習指導要領からは「主体的・対話的で深い学び」と呼び直されています。単に言葉が変わっただけでなく、内容も大きく変わりました。「アクティブ・ラーニング」というと、とにかく子供を活動させればいいかのように勘違いしがちでした。しかしこれからの「主体的・対話的で深い学び」では、子供が活動するかしないかに関わらず、「深い学び」が実現できているかどうかが決定的に重要になります。そしてもちろん「深い学び」を実現するために子供の主体的・対話的な活動が有効であることに変わりはありませんが、逆に言えば単に主体的・対話的な活動をするだけでは充分ではありません。
 そんなわけで、ポイントは「深い学び」の理解にあります。文部科学省がどう言っているか、学習指導要領を読みながら確認していきましょう。

学習指導要領の記述

 まず『学習指導要領』総則「第3の1」には、以下のような文章が示されています。

第3 教育課程の実施と学習評価
1 主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善
各教科等の指導に当たっては、次の事項に配慮するものとする。
(1) 第1の3の(1)から(3)までに示すことが偏りなく実現されるよう、単元や題材など内容や時間のまとまりを見通しながら、生徒の主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善を行うこと。
特に、各教科等において身に付けた知識及び技能を活用したり、思考力、判断力、表現力等学びに向かう力人間性等を発揮させたりして、学習の対象となる物事を捉え思考することにより、各教科等の特質に応じた物事を捉える視点や考え方(以下「見方・考え方」という。)が鍛えられていくことに留意し、生徒が各教科等の特質に応じた見方・考え方を働かせながら、知識を相互に関連付けてより深く理解したり、情報を精査して考えを形成したり、問題を見いだして解決策を考えたり、思いや考えを基に創造したりすることに向かう過程を重視した学習の充実を図ること。(7-8頁)

 この記述の中で最大限に注意したいのは、「深い学び」という概念を理解する上で「見方・考え方」という言葉が重要な位置づけを持たされていることです。この教科に特有の「見方・考え方」をしっかり理解しているかどうかが、「深い学び」を実現する上で決定的な鍵を握っています。(ちなみに各教科に固有の「見方・考え方」については、『学習指導要領』の各教科ごとの目標に示されています。)

アクティブ・ラーニングとの違い

 「見方・考え方」が重要だということを踏まえた上で、具体的にどうするべきか、『学習指導要領解説』を見ながら確認していきましょう。

学習指導要領解説 総則編の記述

 『学習指導要領解説 総則編』では、今時改訂の基本方針について、以下のように示し、授業改善の方向について具体的に示唆しています。文部科学省が学校や教師に具体的に何を求めているかが分かります。特に従来の「アクティブ・ラーニング」との違いについて意識しながら読んでいきましょう。

今回の改訂では「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善を進める際の指導上の配慮事項を総則に記載するとともに、各教科等の「第3 指導計画の作成と内容の取扱い」において、単元や題材など内容や時間のまとまりを見通して、その中で育む資質・能力の育成に向けて、「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善を進めることを示した。
その際、以下の6点に留意して取り組むことが重要である。
ア 児童生徒に求められる資質・能力を育成することを目指した授業改善の取組は、既に小・中学校を中心に多くの実践が積み重ねられており、特に義務教育段階はこれまで地道に取り組まれ蓄積されてきた実践を否定し、全く異なる指導方法を導入しなければならないと捉える必要はないこと。
イ 授業の方法や技術の改善のみを意図するものではなく、児童生徒に目指す資質・能力を育むために「主体的な学び」、「対話的な学び」、「深い学び」の視点で、授業改善を進めるものであること。
ウ 各教科等において通常行われている学習活動(言語活動、観察・実験、問題解決的な学習など)の質を向上させることを主眼とするものであること。
エ 1回1回の授業で全ての学びが実現されるものではなく、単元や題材など内容や時間のまとまりの中で、学習を見通し振り返る場面をどこに設定するか、グループなどで対話する場面をどこに設定するか、児童生徒が考える場面と教師が教える場面をどのように組み立てるかを考え、実現を図っていくものであること。
オ 深い学びの鍵として「見方・考え方」を働かせることが重要になること。各教科等の「見方・考え方」は、「どのような視点で物事を捉え、どのような考え方で思考していくのか」というその教科等ならではの物事を捉える視点や考え方である。各教科等を学ぶ本質的な意義の中核をなすものであり、教科等の学習と社会をつなぐものであることから、児童生徒が学習や人生において「見方・考え方」を自在に働かせることができるようにすることにこそ、教師の専門性が発揮されることが求められること。
カ 基礎的・基本的な知識及び技能の習得に課題がある場合には、その確実な習得を図ることを重視すること。(4頁)

 まずこの一連の記述に、これまでの「アクティブ・ラーニング」に関わって現場で発生した混乱に対する反省と配慮が見られることに注目しましょう。たとえば「ア」で示された「全く異なる指導方法を導入しなければならないと捉える必要はない」という文言は、「アクティブ・ラーニング」という表面上の言葉に右往左往した教育現場に対して釘を刺した強い表現です。「イ」で示された「授業の方法や技術の改善のみを意図するものではなく」という文言も、文部科学省の意図を読み誤って表面的な理解をしがちな教育現場に対する強い表現です。現場が本質的なところに目を向けずに表面的なところばかりにこだわっているという苛立ちすら伺えます。「エ」は、生徒を活動させるような授業を毎度毎度やらなければいけないという誤解に対して釘を刺したものです。生徒が主体的に活動する機会は長い目で単元を見て適切に設定すればいいのであって、毎回必須なわけではありません。「カ」に関しては、80頁でも「例えば高度な社会課題の解決だけを目指したり、そのための討論や対話といった学習活動を行ったりすることのみが主体的・対話的で深い学びではない点に留意が必要」というように釘を刺しています。

 まとめると、子供の動きさえアクティブであればいいという姿勢は、どうやら教育の本質を捉えていなかったようです。

 それでは文部科学省の本来の意図はどこに示されているかというと、中核の部分は「オ」の記述にあります。「見方・考え方」という概念の理解が、主体的・対話的で深い学びを考える最重要ポイントになるという記述です。「教科等の学習と社会をつなぐ」という言葉に見えるとおり、それは「社会に開かれた教育課程」を成功させるポイントでもあるし、したがって「カリキュラム・マネジメント」を実現する要点でもあるわけです。つまり、今回の学習指導要領において決定的に重要なポイントです。

「深い学び」とは何か?

 続いて『学習指導要領解説』は、「主体的」「対話的」「深い学び」がそれぞれ具体的にどのようなものかについて、以下のように示しています。

主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善の具体的な内容については、中央教育審議会答申において、以下の三つの視点に立った授業改善を行うことが示されている。教科等の特質を踏まえ、具体的な学習内容や生徒の状況等に応じて、これらの視点の具体的な内容を手掛かりに、質の高い学びを実現し、学習内容を深く理解し、資質・能力を身に付け、生涯にわたって能動的(アクティブ)に学び続けるようにすることが求められている。
① 学ぶことに興味や関心を持ち、自己のキャリア形成の方向性と関連付けながら、見通しをもって粘り強く取り組み、自己の学習活動を振り返って次につなげる「主体的な学び」が実現できているかという視点。
② 子供同士の協働、教職員や地域の人との対話、先哲の考え方を手掛かりに考えること等を通じ、自己の考えを広げ深める「対話的な学び」が実現できているかという視点。
③ 習得・活用・探究という学びの過程の中で、各教科等の特質に応じた「見方・考え方」を働かせながら、知識を相互に関連付けてより深く理解したり、情報を精査して考えを形成したり、問題を見いだして解決策を考えたり、思いや考えを基に創造したりすることに向かう「深い学び」が実現できているかという視点。(77頁)

 ここで示された内容のうち、(1)の主体的な学びと(2)の対話的な学びについては、これまでの学習指導要領や「アクティブ・ラーニング」という言葉でも示されてきた内容と言えます。決定的に目新しい部分はありません。目新しいのは、(3)の「深い学び」に関する記述です。実際に「解説総則編」においても、「深い学び」に関する記述が手厚くなっています。たとえば以下の通りです。

主体的・対話的で深い学びの実現を目指して授業改善を進めるに当たり、特に「深い学び」の視点に関して、各教科等の学びの深まりの鍵となるのが「見方・考え方」である。各教科等の特質に応じた物事を捉える視点や考え方である「見方・考え方」は、新しい知識及び技能を既にもっている知識及び技能と結び付けながら社会の中で生きて働くものとして習得したり、思考力、判断力、表現力等を豊かなものとしたり、社会や世界にどのように関わるかの視座を形成したりするために重要なものであり、習得・活用・探究という学びの過程の中で働かせることを通じて、より質の高い深い学びにつなげることが重要である。(77-78頁)

 「見方・考え方」とは、単に「物事」を知るだけでなく、「物事を本質的に捉える概念や方法」を働かせることを強調する言葉です。テストで結果として正解を書けることが重要なのではなく、学びの過程を経ることによって、生活や世界の見え方が変化し、生活の仕方や世界への関わり方が変化するような効果が期待されています。この期待が学習指導要領本文では「過程を重視した学習の充実」という表現となっています。逆に言えば、過程ではなく結果を重視するような学習、要するにテストだけできればよいという姿勢は、浅い学びということになります。カリキュラム・マネジメントのCHECK指標に「全国学力・学習状況調査」の点数を安易に用いるのが危険なのは、過程ではなく結果を重視する浅い学びを助長する恐れがあるからですね。
 さらに、この記述の中に「社会の中で生きて働くもの」とか「社会や世界にどのように関わるかの視座を形成したりする」という表現があるように、「深い学び」は「社会に開かれた教育課程」の理念を実現する上で決定的に重要な役割を果たします。どれだけスクール・マネジメントをしたり制度改革をしたりしても、最終的に授業の中で子供を成長させることができなければ何の意味もありません。「社会に開かれた教育課程」という理念を一人ひとりの子供の成長に落とし込むのは、最終的には「深い学び」の働きとなります。
 そして「深い学び」を実現させるために、各教員は教科特有の「見方・考え方」について真剣に考える必要があります。国語科には国語科特有の「見方・考え方」があり、家庭科には家庭科特有の「見方・考え方」があります。各教科それぞれに固有の「見方・考え方」があります。それぞれの教科を通じてそれぞれ固有の「見方・考え方」を身につけることが、最終的には「これからの時代に求められる資質・能力」の獲得へと結びついていくことになります。
 この視点は、カリキュラム・マネジメントを考える上で決定的に重要になります。たとえばカリキュラム・マネジメントにおいて「教科等横断的な資質・能力」を育成すると言う場合、それぞれの教科がそれぞれ固有の「見方・考え方」を追求することで教科等横断的な資質・能力の育成を実現していくことが求められています。逆に言えば、とってつけたような合科教授をでっち上げる必要は特にないわけです。必要なのは、それぞれの教科に固有の「見方・考え方」の本質を追究する姿勢です。それぞれの教科が「教科の本質」を追究して、一人ひとりの子供に「見方・考え方」を身につけさせることで、「育成すべき資質・能力」が総合的に伸びていくわけです。逆に言えば、各教員が「教科の本質」を理解していないとき、カリキュラム・マネジメントは失敗に終わります。

まとめ

 以上、学習指導要領と解説編の記述を踏まえながら、「主体的・対話的で深い学び」について見てきました。そして分かったことは、これは単なる表面的な技術改善などではなく、学習指導要領の理念である「社会に開かれた教育課程」や「カリキュラム・マネジメント」を実現する上での、決定的に重要な、絶対に欠くことができない、必須の条件であるということです。つまり「社会に開かれた教育課程」や「カリキュラム・マネジメント」は、管理職が構想して書類を書いて終了などという課題ではなく、一人ひとりの教員が「教科の本質」をしっかりと把握するところから積み上げていかなければ成功しないということです。従来の「アクティブ・ラーニング」という言葉では、これが伝わりません。だから、今回の学習指導要領では「主体的・対話的で深い学び」という言葉に変わった上で、特に「深い学び」に焦点が当たった記述になっているわけです。

参考文献

■田村学『深い学び』東洋館出版社、2018年

 主体的・対話的で深い学びの中でも特に「深い学び」とはどういうことかに焦点を当てて解説を加えた本。具体的な実践例も豊富に示されていて、新学習指導要領が目指す理念を具体的な授業実践に落とし込む際には大いに参考になると思う。文科省の施策の背景や学習指導要領改訂の経緯も簡潔にまとめられていて、理論的にもわかりやすい。

■田村学著・京都市立下京中学校編『深い学びを育てる思考ツールを活用した授業実践 公立中学校版』小学館教育技術MOOK、2018年

 「主体的な学び」や「対話的な学び」が比較的イメージしやすい言葉なのに対して、「深い学び」はなかなか分かりにくい。この「深い学び」を具体的な実践で実現しようとするとき、本書で示された各種の「思考ツール」が役に立つ。本書は実際の授業で様々な「思考ツール」を活用した例が紹介されており、実践面で参考になるかもしれない。

■小針誠『アクティブラーニング―学校教育の理想と現実』講談社現代新書、2018年

 教育方法の歴史を明治・大正期から掘り起こし、現在のアクティブ・ラーニングの試みが実は150年前から行なわれ、なおかつ失敗続きであったことがよく分かる一冊。この失敗の歴史から教訓を得ないかぎり、21世紀もおそらく同じ失敗を繰り返すだけだろう。文科省が「アクティブ・ラーニング」という言葉の使用をやめて「深い学び」と言い出した理由も、本書と同様の見立てに由来すると思われるが、単に言葉を代えただけでは問題は本質的には解決しない。

■『新教育課程ライブラリII Vol.3 「深い学び」を深く考える』ぎょうせい、2017年

 『学習指導要領』本文が公布される直前に出ているので微妙なニュアンスの違いはあるかもしれないが、従来のアクティブ・ラーニングとの違いを認識する上では間違いなく参考になる。個別具体的な実践例が豊富というより、従前のアクティブ・ラーニングと今時の「深い学び」の違いを浮き立たせたり、現場でよく見られる勘違いを修正するような、理論的な話が多い印象。共通して、子供が活動することだけが「深い学び」ではないことが強調されている。