教育の基礎理論-2

▼短大栄養科 9/26

前回のおさらい

・東洋と西洋の昔(2000年前)の教育の在り方。現在の教育とはまるで形が違うことに注意。

大人と子供の境界線

・「人格の完成」とは、日常的なことばで簡単に言い換えれば、「大人になる」ということである。
・「教育」とは、「子供」だった存在を「大人」へと成長させる手助けと言うこともできる。

【思考実験】「子供」と「大人」の違いとは?

・自分が「子供」なのか「大人」なのか、生活を振り返って考えてみよう。
・「大人」の条件とは何か、考えてみよう。

・現在は、様々な基準で大人と子供の間に境界線が引かれている。
・たとえば、労働(働いているのが大人、働いていないのが子供)、経済的自立、年齢制限(酒や煙草を許されるのが大人、許されないのが子供)、選挙権、結婚、子供を持つなどという基準が考えられる。

・いっぽうの子供は……かわいい・守ってあげたい・将来の世の中のために大切・初々しい・無邪気・純粋・天真爛漫

・しかし実は、日本でもヨーロッパでも、「子供」をこのように考え始めたのはそう昔の話ではない。
・かつて、「大人」と「子供」の間には、現在のような明確な境界線は存在しなかった。

子供はいなかった?

・かつての世界では、「7歳」という年齢が大きな境界線となっていた。
・7歳以後、人々は労働に従事していた。つまり大人の世界の一員として世界に参入していた。子供の仕事としては、日本では芝刈りや馬引、水汲みなどに従事している姿が絵の中に残されている。
・同様に、遊びは子供だけの特権ではなく、大人も一緒に楽しむものだった。労働や遊びという点で、大人と子供に明確な区別はなかった。

・いっぽう、7歳以下は、社会全体の無関心に晒されていた。
・乳幼児死亡率の高さ。

生理的早産

・人間以外の高等哺乳類は、誕生してからすぐに親と同じような行動をとることができる。しかし人間の赤ん坊は「能なし」で生まれてくる。高等哺乳類の例に習うなら、人間はあともう一年は母親の胎内にいる必要がある。
・この一年早く生まれてくることを「生理的早産」と呼ぶ。この現象こそが、人間を人間たらしめているという仮説。
・生物学的・自然科学的な過程によって必然的に成長が決められるのではなく、歴史的・文化的な過程によって選択的に成長が決まる。ここに人間らしい「個性」が生まれる。
【参考文献】ポルトマン『人間はどこまで動物か』

人間はどこから人間か?

・「7歳」という境界線。埋葬、捨て子、マビキ。
・妊娠中絶は殺人か? →昔と今とでは、「なかったことにする」という意味で、やっていること自体は変わらない。単に「どこから人間か」という境界線が移動している。

昔の「家族」の生活を考えてみよう

・「家族」は子育てしていたか?
・生産力の低さ。子供も労働しなければ、家族が生きていけない世界。父親も母親も、生きるための労働で精一杯であって、子育ての優先順位は下がっていく。
・社会(ムラ)と家族との関係。現在は家族が独立した島宇宙のようになって社会から隔絶しているが、かつては家族と社会(ムラ)の間の境界線は曖昧だった。家族が子育てをできなければ、社会全体でそれを担う。

参考文献

フィリップ・アリエス『<子供>の誕生』
主にフランスにおいて「子供期」がどのように生じてきたかを分析した社会史研究書。中世まで人々は子供に無関心だったが、17世紀から子供と大人の間の境界線が厚くなっていったという見解。

カニンガム『概説子ども観の社会史』
ヨーロッパと北米において、子どもの実際と観念がどのように変化したかを概観した社会史研究書。20世紀における急激な変化を強調するとともに、子供期の形成にとって「学校」の持つ決定的な重要性を指摘している。

柴田純『日本幼児史』
日本において7歳という境界線がどのように生じたかを分析した歴史学の本。古代・中世の人々は子供に対して無関心だったが、江戸中期以降に子供に対する心性が大きく転回したという見解。

「形成」と「教育」の違い

・「教育」はなかった。
・「学校」がなかったころも人々は人間形成を行っていた。「教育」と異なる形態の人間形成のことを専門用語で「形成」と呼ぶ。

形成と教育の違い

カテゴリー形成(前近代)教育(近代)
【何を習得するか】カンとコツ知識と教養
【どこに修めるか】身体
【どうやって伝えるか】行動文字
【規範意識】恥じ・しつけ公共性・道徳
【根拠】経験と仕来り科学と合理性
【指導する人】村落共同体資格を持った教師
【見える光景】背中
【労働との関係】労働と一体労働と分離
【祭祀との関係】祭祀と連続祭祀と分離
【遊びとの関係】遊びと連続遊びを排除
【カリキュラム】実践的・偶然的意図的・計画的
【行政】自治中央集権
【大人の条件】一人前人格の完成
【人間像】身分・地域の特殊性普遍的人間

・徒弟制。ギルド。親方-弟子の関係。疑似親子関係。
・昔の子どもは活き活きしていた? →子どもが変わったわけではない。子どもを取り巻く環境のほうが変化したと考えれば、理解できる。
・昔のお父さんは尊敬されていた? →お父さんが変わったわけでも、子どもが変わったわけでもない。労働と教育のあり方が変わったことを考慮すれば、理解できる。
・どうして「形成」ではなく「教育」が必要となったのか? →お父さんと一緒の職業に就くなら「形成」で問題ないが、別の職業に就く場合には「形成」はむしろ意味がなくなる。

復習

・「子供」が「大人」になるとはどういう意味なのか、自分の生活を振り返って考えてみよう。
・「生理的早産」という言葉を使って、人間の成長の特徴を説明してみよう。
・「家族」の変化によって「子供」へのまなざしが変化する理屈をまとめておこう。

予習

・「イニシエーション」という言葉の意味を調べておこう。