【要約と感想】村井実『教育と民主主義』

【要約】現在の教育の歪みは、教育が政治に支配されていることが原因です。教育を立て直すためには、教育が政治から独立しなければなりません。人々が自分たちの教育を自分たち自身で行っていた伝統は、日本には江戸時代から存在していました。現在では、素晴らしい教育の例が、宮城まりこ「ねむの木学園」に見られます。

【感想】教育の政治からの独立という事案は、もちろん特に村井実が言い始めたわけではなく、定期的に繰り返される提案である。それだけ切実な提案ということでもある。本書では触れられていないわけだが、立法・司法・行政の三権と並んで教権が建てられるべきという、田中耕太郎の構想などは特に有名だろう。どうして著者がこれに触れないのかは不明ではあるが。

しかし時代は教育権の独立からは逆行し、たとえば教育基本法改正に伴う地教行法の改正によって教育委員会の権限が変更され、教育はますます政治に従属するようになってきている。教育再生路線なんかは、露骨に政治が教育をコントロールしているわけで。現実は、村井実が主張する教育の理想からますます離れているようだ。

ところで、著者は江戸幕府を中央集権と断じながら、もう一方で江戸時代の自主自学の風潮を称揚しているわけだが、こういう歴史観には、ちょっと不安を感じる。また、本書でも進化論に食ってかかっているわけだが、やはり、たいへん危うい立論のように見える。ダーウィンに対する理解も一面的なように思える。膨大な先行研究が蓄積されている専門領域に「善さ」一元論で切り込んでいく姿勢に対しては、ちょっと距離を取らざるをえない。

ただそういう危ういところは多少差し引いたとしても、教育権の独立をてらいもなく真正面から訴えることができる前向きにポジティヴな教育学の体系は、間違いなく重要な価値を持っている。

村井実『教育と「民主主義」』東洋館出版社、2005年