【要約と感想】村井実『教育改革の思想』

【要約】日本の教育が閉塞感に陥っているのは、すべて国家主義的な思いこみが原因です。戦後の教育も、見かけは民主主義的になったかもしれませんが、本質的にはやはり国家主義からは逃れていません。子どもの「善さ」を認め、それを伸ばそうとする人間主義的な教育に転換することで、すべてうまくいきます。

【感想】今からちょうど30年前、臨時教育審議会が終わるころに書かれた本。戦後教育の行き詰まり感が絶頂に達した頃と言える。(この後に、いわゆる「ゆとり教育」が始まって、新しい局面を迎えることになる)。高度経済成長後の教育の行き詰まり感に対して一つの視点を与えている本と言うことはできる。

そんなわけで時代の風潮を端々から感じることはできるものの、意外に古くなってはいない。というのも、時事問題を扱っているように見えながら、語っている本質はいつもの通り超時代的で普遍的な教育のあり方だからなんだろう。要するに、いつもの村井節。だが、それがいい。

一つ、話の本筋とは関係ないが、福沢諭吉を「民主主義者」と評価している部分は、ちょっと引っかかった。私から見れば、福沢は自由主義者ではあっても民主主義者ではない。このあたりの些細に見える評価の違いは、最終的にけっこう大きな教育観の違いに導かれるから、要注意だ。

村井実『教育改革の思想―国家主義から人間主義へ』国土社、1987年