【要約と感想】ネトゥルシップ『プラトンの教育論』

※プラトン教育思想の全体像を把握したい方は、こちらの記事のほうが役に立つかもしれません→「プラトンの教育論ー善のイデアを見る哲学的対話法

【要約】プラトン『国家』の各所に散らばって記述されている教育論を、一つにまとめて体系的に記述。

【感想】『国家』には幼児期の教育から高等教育まで様々なプログラムが提示されているものの、相互に矛盾していて統一性があるとは言いがたい。これを一つの体系にまとめようという試みは、けっこう誰にでも思いつきそうで、誰にでもできるというわけではない気がする。よくやったなあと。

個人的におもしろかったのは、プラトンが数学について述べている箇所を、大胆に科学全般に敷衍している発想だ。そしてさらに、諸科学を統合するのが「弁証法」の役割とするのは、独特の見解なんじゃないだろうか。諸科学は、なんらかの証明されていない仮説から出発して様々な知見を得るわけだが、出発点となった仮説自体を説明することは不可能だ。仮説は特異点のままで終わる。特異点を解消し、諸科学の出発点となる仮説そのものを乗り越えて「最高の非仮説的な原理へ到達」することを目指すのが弁証法ということになる。

まあ、それはそれでヒルベルトのプログラムぽい徹底した合理主義的な感じなどがとても面白いけれど。ただ、弁証法の体系を科学的論理的に固めすぎていて、相対的にエロスの重要性が低下していくのは気になる。そのあたり、訳者解説のほうはエロスに比重が傾いているのは、ちょっと興味深かった。

R.L.ネトゥルシップ『プラトンの教育論』法律文化社、1981年