【要約と感想】納富信留『プラトン 理想国の現在』

【要約】『ポリテイア』という本は、政治的に読まれるか、非政治的(倫理的)に読まれるか、意見が対立しています。そこで西洋と日本で『ポリテイア』という本がどのように受容されたかを調べました。日本ではプラトンの「イデア」から「理想」という言葉が生まれ、それが現実を支える大きな力となってきたことが分かりました。この「理想」という言葉のあり方を真剣に考えると、プラトン思想を現代で読む意義が改めて浮かび上がります。

【感想】とても面白く読んだ。まず、近代日本思想史に密接に絡んでくることをまったく想定していなかったが、その部分が予想外に面白く、勉強になった。「理想」という日本語の変遷について、本書はプラトン『ポリテイア』を軸に検討されているわけだが、改めて近代日本思想史全体の文脈の中で調べてみる価値があるなあと思った。

それから、『ポリテイア』を政治的に読むか、倫理的に読むかについて。個人的には圧倒的に「教育的」に読みたいわけだが。しかしそう主観的に結論を出すわけにはいかない、重厚な議論の積み重ねがある領域なんだなあと、改めて痛感する。「「ポリテイア」とは、言葉で可視化された「正しさ」そのもののモデルなのである。」(209頁)という結論に、もう、なるほどなあと。

気になるのは、宇宙=ポリス=個人の三層を貫く構造として「正しさ」を捉えるという論理が、明治中期から流行する国粋主義とソックリという点だ。三宅雪嶺や陸羯南は、宇宙=国家=個人を貫く理論を以て「ナショナリズム」を構築する。特に三宅雪嶺がどこから宇宙論的な霊感を得たか、かなり気になるところだ。プラトンの影響があるのか? 調べてみようと思った。

納富信留『プラトン 理想国の現在』慶應義塾大学出版会、2012年

→参考:研究ノート「プラトンの教育論―善のイデアを見る哲学的対話法」