教育概論Ⅰ(栄養)-6

▼短大栄養科 5/23(火)

前回のおさらい

・ヨーロッパが強くなった理由。個人主義+民主主義。
・市民革命と、その理論としての社会契約論。ホッブズ→ロック→ルソー。
・新しい社会(契約によって結ばれる世の中)を作るためには、新しい人間(独立した自由で平等な個人)を作る教育が必要。
・普遍的な人間を作るための教育=人格の完成

※自然発生的に広まった教育(日本の江戸時代や印刷術発明後のヨーロッパ)と、普遍的な人間を作るための教育(市民革命後のヨーロッパ)の違いを考えてみよう。教育を受ける人や、教育の内容や、教育への国家の関与などが、どのように異なるだろうか?

憲法と「教育の自由」

思考実験:憲法がないとどうなるか?

・もしも多数決だけで世の中がきまるどうなるか?
・「多数の専制」とは何か。
・誰がリーダーになったとしても「これだけは絶対にやってはいけない」という、リーダーの暴走を防ぐ禁じ手をあらかじめ定めておく必要がある。
・憲法の原理=一般意志 人間性に関する普遍的な原則から導き出すことができるような、合理的かつ普遍的なルール。

基本的人権

基本的人権:誰がリーダーになったとしても、絶対に人々から奪うことができない生まれながらの権利。→社会契約論で議論された、自然状態の人間が持っていた自由。
自由権:国家からの自由。国家が侵害することができない、個人が持つ権利。

教育の自由。自由権としての教育

・自分の子供をどのように教育するかは、国家から関与されることではない。←信仰の自由 どのような思想信条を持つかについて、国家が個人に命令することはできない。
・この場合の教育とは、知識を注入したり偏差値を上げるような教育ではなく、または特定の職業を目指すような教育ではなく、普遍的な人間を作るための「人格の完成」を目指す教育。
・Instruction=専門教育とEducation=普通教育の違い。

近代の教育思想

・特定の職業や身分のための人間形成を超えるような、普遍的な人間を作ることを目指す教育思想は、近代から始まる。

エラスムス Desiderius Erasmus Roterodamus

・ルネサンス、人文主義。
・1466年~1536年。ネーデルラント出身。
・主著『痴愚神礼讃
・体罰を否定し、子供の自由と人格を尊重する。
・子供の興味に即した教育。

コメニウス Johannes Amos Comenius

・宗教改革、プロテスタント。
・1592年~1670年。モラヴィア出身。
・主著『大教授学』『世界図絵
・教育学的愛称:近代教授学の父
・キャッチフレーズ:全ての人にに全ての事柄を教授する

ロック John Locke

・市民革命、経験主義。
・1632年~1704年。イングランド出身。
・主著『市民政府論』(政治思想)、『人間悟性論』(認識論)、『教育論』あるいは『教育に関する一考察』(教育思想:翻訳が異なるだけ)
・キャッチフレーズ:紳士教育タブラ・ラサ(白紙説)
・名言:健全なる精神は健全なる身体に宿る
・新しい市民社会を担う紳士(ジェントルマン)を作る。子供期の独自性を認めるというより、理性ある大人になるための教育。習慣形成の重要性。

ルソー Jean-Jacques Rousseau

・市民革命、ロマン主義。
・1712年~1778年。ジュネーヴ出身。
・主著『社会契約論』(政治思想)、『人間不平等起源論』(政治思想)、『エミール』(教育思想)
・キャッチフレーズ:子どもの発見消極教育
・名言:万物を創る者の手を離れるときはすべてよいものであるが、人間の手に移るとすべてが悪くなる
・子供期の独自性を初めて主張する。消極教育とは、書物による早期教育をいましめ、まず自然による教育(たとえば感覚の訓練など)を重視する姿勢。

近代教育思想の特徴

・完成した大人の理想像から教育を組み立てる考え(ロック的なもの)と、純粋な子供の理想像から教育を組み立てる考え(ルソー的なもの)の両側面。子供の誕生=大人の誕生。
・いずれにせよ、あらゆる人間が共通して持つ「理性」に対する全面的な信頼。
・個人を育てる私教育。集団の軽視。

復習

・近代の教育思想家の主張について、単に暗記するのではなく、時代背景を思い浮かべながら、それぞれの考えを味わってみよう。

予習

・ペスタロッチーやヘルバルトという人物について調べよう。