教育概論Ⅰ(中高)-5

▼栄養・環教 5/19
▼語学・心カ・教服・服美・表現 5/20

前回のおさらい

・日本で現在のような子供観が生じてきたのは、江戸時代半ば(1750年ごろ)から。
・寺子屋のような庶民の教育機関は、支配者から命令されたり押しつけられたりしてできたのではない。読み書きそろばん等の知識が人生の役に立つことが理解され、教育の必要を感じた人々によって、自発的に成長した。
・日本の近代化は、明治維新(1868年)以降に本格的に展開する。日本の教育を理解するためには、ヨーロッパの事情を確認する必要がある。
・ヨーロッパが強くなった理由。新大陸発見と印刷術、リテラシー。

ヨーロッパはどうして強くなったのか?

(2)宗教改革
(3)ルネサンス

ルターの宗教改革(1517年)

・カトリックとプロテスタントの違い。
・「聖書を読む」という行為を可能にするためには、聖書というモノそのものを低価格で供給する印刷術の存在が前提。
・印刷術が存在しない世界での情報発信の難しさ。ルターとヤン・フスの比較。
・世界を変革するためには、自分の意見を無差別かつ広範囲に、そして正確に発信することが必要。情報発信の決定的な手段としてのリテラシー。
・個人的な欲望や野心を実現するための手段。

ルネサンス(15世紀)

・芸術家の誕生。神に捧げるための技術から人間を楽しませるための芸術への転回。
・孤独な読書体験。音読から黙読へ。
・自己実現の決定的な条件としてのリテラシー。
・個人的な欲望や野心を醸成する経験。

個人主義の誕生

・ヨーロッパに強大な力をもたらした新大陸発見、宗教改革、ルネサンスには、印刷術という新しい技術とリテラシーという新しい経験が共通して前提されている。
・それは同時に人間の欲望を積極的に肯定していく。原始的な個人主義(わがまま、自分勝手、自己満足)の進展。
・富を獲得し、天国を目指し、新たな娯楽に接触し、自己実現するためには、リテラシーを獲得しなければならない。
・リテラシーを獲得する手段=教育。
・リテラシーを獲得する場所=学校。

リテラシーの獲得と、モラトリアム

・人々自らの生活の必要によって教育機関が作られていく。権力者によって強制的に教育や学校が押しつけられていくわけではない。(むしろ権力者にとってみれば、一般民衆が教育水準を高めることは脅威となる)
・しかし次第に、生活をしていく上で、なにをするにもリテラシーが必要な世の中へと変化していく。リテラシーを身につけることが、人間として生きていく上での必須の条件と見なされるようになっていく。
・リテラシーを身につける場としての学校。
・リテラシーを身につける期間としてのモラトリアム。

モラトリアム:執行猶予。大人としての労働や責任等から免除されている期間。思春期・青年期の拡張。大人と子供の距離が広がっていく。

コンピュータ・リテラシー

・印刷術の登場に見られるように、新しいメディア技術の展開が人間の生活を大きく変化させる場合がある。それは現代のコンピュータの登場によって人々の生活が劇的に変化したことを考えると、わかりやすい。

コンピュータ・リテラシー:コンピュータを使って情報を得たり発信したりすることができる能力。

・ここ数年で、就職活動をするにもコンピュータ・リテラシーが必須な世の中へと劇的に変化した。コンピュータが使えないと、まともに就職もできないような世の中。→たとえば「履歴書」とは何か。

欲望の解放と制御

・市民社会:欲望の体系(ヘーゲル『法の哲学』)。原始的な個人主義(欲望にまみれた利己的人間)を満足させるために組み立てられた世の中。
・世界の経済的発展は「欲望の解放」によって促進される。「欲望の制御」を厳しくしすぎると、世界は停滞する。
・しかし人間の欲望には際限というものがない。解放された欲望は、そのままでは世界そのものを破壊してしまう。
・欲望を解放して、自分勝手な利己的人間だらけになって、なおかつ世界を破滅させないような方法はあるか? →民主主義

復習

・「リテラシー」という言葉の意味と、それが教育に対して持っている意義をしっかり理解しよう。

予習

・「社会契約論」について、調べておこう。

課題

・締め切り:2週間 6/2(金)・6/3(土)
・形式:800字程度。手書きOK、コンピュータOK。用紙サイズなど、日本語で読めれば何でも可。
・内容「新聞や雑誌などから、現代日本の教育に関わる問題のうち、最も重要だと思うものを選んで、問題の概要を説明し、自分の見解を述べよ。」